君に12本のバラを。

牧瀬実那

ダーズンローズデー

 "ダーズンローズデー"

 12月12日に愛する人へ12本のバラを贈るヨーロッパの文化だそう。

 ……だからというわけではないんだけれど。


「えっ、わぁ! どうしたんですか、そのお花」

 大きくて丸っこい目を更に大きく丸く開いて、奥さんが俺と俺の手元を交互に見る。

「その……なんかそういう日、らしいので」

 きまりが悪いというか、ムズムズする。

 思わず目を泳いだのと同時に手元の花束ががさり・・・と音を立てた。

 12本のバラでできた花束。その鮮やかで華やかな赤色は、奥さんの艶やかな髪に引けを取らない。

「そういう日、ですか」

「そういう……愛する人に12本のバラの花束を渡す日だとか」

 こういうのはあんまりガラじゃないんですけどバラだし君はバラが似合うしせっかくなので

 ――なんて、早口でごにょごにょと並べ立てる。

 こういうことはしたことが無いので、照れと恥ずかしさで顔が熱い。

 多分、俺もバラと負けず劣らず真っ赤になってると思う。

 少しの間、奥さんは目をぱちくりさせた後、「ありがとうございます! すごく嬉しいですっ」と明るく言ってくれた。

 その満開の笑顔はバラと同じように愛らしく、照れなんてあっという間にふっ飛ばしていった。

「で、ではどうぞ」

 慣れない動きで手渡すと、奥さんは「ふふふ」と花束に唇を寄せた。

「私も何かお返ししないとですねぇ」

 楽しみにしていてくださいね、と微笑む彼女に「はい」と返す。

 本当はお礼なんて無くても構わないけど、愛おしい奥さんが用意してくれるなら喜んで受け取ろう。

 しばらくはそのことを楽しみに頑張れそうだ。

 そして。


 ――これからも時々花を贈ろう。


 そう心に決めるのだった。

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