1+1の正解がわからない
兎龍月夜
第1話
夜更け、参考書と赤本の山に囲まれ
健太は鉛筆を走らせていた。受験本番まで残り一週間。眠気覚ましにコーヒーを一口。胃にしみる苦味が、決意をかき立てる。
「絶対に合格してやる……!」
気づけば視界が歪み、文字が滲んで踊り出す。0が跳ね、1が反転し、英文は勝手に
ラップ調で韻を踏む。次の瞬間、健太は大講堂に立っていた。
壇上の試験官が無表情に告げる。
「これが最終試験だ。
答えを間違えれば……落ちる」
黒板に浮かぶ問題は一行。
『1+1=?』
あまりに簡単だ、
と安心し「2」と書いた。
だが赤いバツ印が即座に走る。
「不正解」
ざわ……と広がる囁き。
焦って「3」と書くと、またもバツ。
「違う、違う、違う……」
受験生たちが一斉に振り向き
口を揃えて叫ぶ。
「落ちるぞ、落ちるぞ、落ちるぞ!」
心臓が破裂しそうだ。
試験官の目は氷のように冷たい。
必死に答えをひねり出す。
「……11?」
黒板にまたも赤いバツ。
逃げ場はない。健太は絶叫した。
「もうやめてくれえええ!」
――バチン、と世界が切り替わる。
机に突っ伏していた健太ははっと目を覚ます。参考書の余白には
「1+1=3、11、窓、カレー」と意味不明な落書きが並んでいる。息は荒く、全身汗まみれ。
時計は夜中の二時。
窓の外はしんと静まり返っていた。
「……夢か」
胸をなで下ろしたが、妙に手が震える。ふと横を見ると、開いた参考書の端に赤い文字でこう書かれていた。
『正解はまだ書かれていない』
健太は固まった。……いや、考えるな。
深呼吸し、鉛筆を握り直す。
「さあ、続きだ。今度こそ夢じゃなく
現実で勝ち取ってやる」
1+1の正解がわからない 兎龍月夜 @choko12
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