第九話 秒で彼女ポジした(14×24)

「こんなオンボロでドライブなんて命がけなんですけど?」 


 中学二年の千鶴ちづるは、シートベルトを締めるとわざとらしく首をすくめてみせた。免許を取り安い中古車を買った俺、雄大ゆうだい。ハンドルを握る手汗がすごい。


「海行きたいって言ったのお前だからな」


 エンジンを掛けゆっくりと発車する。


「おっそ! 走るのおっそ!」


 運転に集中する。 


「てか助手席って彼女ポジなんですけど? わたし従妹なの知ってた? 海って言っただけではしゃいじゃってさ~。まさか初デートのつもりだったの? おまわりさん案件だよ?」 


「ちょっと黙っててくれ……」


 高速でまくし立てる千鶴はペットボトルを開けて一口飲む。


「あはは! 背筋ピンとして真顔なのウケる!」


 ぎゃーぎゃーと、はしゃぐ千鶴。





 多少道に迷いながらも辿り着いた。

 千鶴は颯爽と飛び出すと、


「ふぁ〜〜……んん〜〜っ!」


 両手を空に突き上げ、大きく背伸びをした。

 ビーチは人で溢れかえっている。

 千鶴はトートバッグを引きずり出し、脱衣所へ歩いて行った。


「海だぁーっ! 行くよお兄ちゃん!」 


 いつもより声が弾んでるように聞こえた。





 ――しばらくして出てきた千鶴を見た俺は反射的に目を逸らした。


「お前、その恰好……」 


「水着だよ? JCなめんなよ? あれぇどこ見てんの~お兄ちゃん?」


 にやにやと笑う千鶴。


「あぁ? 見てねえっての!」


 わざとらしく俺の視界に入ってくる。 


「ふーん、まあいいけど。デート初めてなんでしょ? しょうがないから練習つきあってあげる。嬉しい?」


 千鶴は俺の腕を掴んで歩き出した。





 色々連れまわされベンチで休憩中、千鶴が俺のバッグを勝手に覗いてきた。


「……ビデオカメラ? うっわ、まさか今日のために持ってきたの? ロリコンの鑑じゃん」 


「誰がロリコンだよったく……。なんとなく手に取っちまっただけで……」 


「なんとなくで女子中学生の水着撮ろうとするのヤバくない? これ、昔の運動会んときのやつじゃん。まだ捨ててなかったんだ?」 


「運動会以降も色々撮っただろ。入ってんだよこん中に千鶴が」


「……秒で引いた」


 確かに。変な言い方だった。





 ひと休みして海辺に出た。波が気持ちいい。

 千鶴はしゃがんで貝殻を拾っている。 


「……べ、別に、ちょっとだけならビデオ撮らせてあげてもいいけど? 初デート記念にさ。帰ってからにまにますればいいじゃん」


「にまにまなんてしねえよ……」


 撮る気なんてなかったがまあいいか。


「またしばらく会えないし」


 その言葉で、数秒の沈黙が生まれた。  


「そうだな。これから俺、忙しくなりそうだからな」 


「忙しいのはわたしだもん。勉強とか……」 


 砂をいじりながら千鶴がぼそっとつぶやいた。


 

 千鶴の横顔を見る。

 言いたかった言葉は、波にさらわれていった。

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