第八話 秒で居た(13×23)
俺に構わずとも楽しい毎日を過ごしているはず。
23になった俺はバイト帰り、玄関には小さなローファーが綺麗に揃えてあった。
「ん?」
そろりと部屋のドアを開ける。
制服姿の千鶴がスマホを見ながらベッドで寝転んでいた。
「なに?」
「なに? じゃなくて、なんでいるんだよ」
「合鍵渡したのお兄ちゃんでしょ?」
そういえば成人の日。
ドアの前で待ってた千鶴を見て渡したんだった。
「今日ヒマだったし。たまには来てあげようかなって思っただけ。制服姿見たいって言ってたでしょ? 特別に夏服、うつ伏せバージョン披露してあげてまーす」
「言った記憶もないが……」
千鶴はスマホから目を離さない。
塩対応されている気分になったが、制服姿は成長を感じさせる。
「お兄ちゃんには刺激強すぎた? 女の子に飢えた目、ガチじゃん」
ちらりと視線を俺に投げた千鶴はジト目になる。
「飢えてねえわ!」
寝転ぶ千鶴の横を通り、ぺたんこなクッションに座る。
「てか汗くさっ!」
「バイト帰りなんだよ」
「まぁ……クサいのなんて今さらだし。久々だし。慣れてるし。逆に無臭だったら無職だし」
はいはいと、俺はバッグから数冊の教材を机の上に広げた。
「え、勉強?」
「免許取ろうと思って」
「マジ? 転生して帰ってきたの?」
実はいきなり免許証見せて驚かせようと思ってた、とは言えない。
「てか、これ……」
千鶴が教材の山から指先で摘んだのは、くたびれたお守りだった。
「この良縁成就? のお守り効いてるわ。バイト続いてるし」
「良縁……? って、ええっ! ちょちょ!」
(やや、やばっ、これってアレじゃん! お仕事のかと思ってた、最悪!)
「ちょっと返して」
すっと千鶴にお守りが回収される。
「こ、こんなのまだ持ってたの!?」
「大事なんだよそれ」
「――だっ!?」
「だって仕事上手くいくお守りだろ? ああ、そうだ――」
机から、くしゃくしゃになったラッピング袋を取り出す。
「ん。入学祝い。タイミング逃してた」
「えぇ、ちょっと……色々待って……」
「お前、昔これ好きだっただろ?」
千鶴は袋を開ける。
小学生の頃好きだった、光る額のクマのペンケースが出てきた。
「……」
「え、なにその顔。まだ好きなんじゃ」
「え、えっぐ! ぐっろ! まだ好きだと思ってたとか、頭バグってんの? てかこのキャラ、今じゃ絶滅危惧種だよ? センスなっ!」
「んだよ。いらないなら返せよ」
「別にいらないとか言ってなくない?」
千鶴はペンケースをそっと胸に抱きしめた。
それ以上は言わなくなった。
ため息交じりに、お守りも返してくれた。
「……こんなの、使えないじゃん」
懐かしい空気にちょっとだけ癒された俺が居た。
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