愛の可視化。

 ぐっと息をつめて、我慢に我慢を重ねて、苦しさの限界が来る。

 わっと息を吸って、体中に酸素が巡って、ズキズキしていた頭痛が和らぐ。

 胸は激しく鼓動を刻み、痺れにも似た怠さが抜ける。

 苦しさの先にある介抱こそが至高の快感。

 これは僕が大好きな遊び。


 そんな遊びを繰り返していた僕は、当然のようにSMプレイにはまった。

 特に好きなのは緊縛と窒息。

 スパンキングも好きだけど、なかなか好みのプレイをしてくれる人がいないのが悩みの種。SMプレイって本当に素敵なパートナーに出会えるかどうかが全てだと思う。

 窒息は一人でできるから、パートナーがいなくても僕はよく遊びに耽っていた。


 恋人が僕の口を手で塞ぐ。微笑みながら塞いでくるその手は、振り払えないほど強くはない。

 でも、僕はその手を受け入れて、そのまま息を詰める。

「ねぇ? 苦しい?」

 恋人はクスクスと笑いながら訊ねる。

「愛してるなら、我慢して?」

 これは恋人から与えられる愛情表現。

 苦しむ僕を見て、恋人は愛を可視している。

 息を止めて、血が上り、汗をかき始めた僕の顔を見て、恋人はぎゅっとさらに強く手を押し付けてくる。

 ズキズキと頭の中に心臓が移動したみたいにこめかみが痛む。

 息がしたくて、僕は足をバタつかせて藻掻く。

 でも手は外れない。外さない。受け入れる。

 目には恋人の顔が映るけど、もう何を見ているのかわからない。

 目、鼻、口、笑ってる、恋人の顔、もうぐちゃぐちゃ。

(ああ! ああ! ああっ!)

 僕はもう息をすることしか考えられない。

 でも、息はできない。


 すうっと、冷たいものが頬を撫でたような気がして目を覚ます。

 独り、僕は床の上で寝そべっている。

 今日は少しやりすぎてしまったようだった。

 下着が汚れていて気持ち悪い。

「あーあ……」

 僕は大きくため息を吐く。

 僕の息を止めてくれる人が恋人だったらなぁ。と思う。

 あのぐちゃぐちゃに混ざり合って何もかもぶっ飛ぶような世界で、恋人だけを感じていたいのに。

 恋人の手のひらが恋しくて、僕は唇にそっと指で触れて何もないことを確かめてから、もう一度ため息を吐いた。


 あーあ!

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ヒト非ざるモノ 貴津 @skinpop

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