過去の記憶

「で、あなた誰よ?」


「茉莉、警戒しなくても大丈夫だよ」


 テーブル越しに座るエッジが緑茶りょくちゃをすする。


 彼の頭上にある壁掛け時計をチラ見すると0時25分を指している。再びエッジに視線を戻す。鎖骨の辺りまで伸びている豊かな金髪は、どちらかというと蜂蜜はちみつのような色に近い。彼の小麦色の肌に溶け込みそうだ。整った眉に――エッジが私の視線に気づいた。純粋な少年のような笑みを見せる彼の瞳は澄んだブルーだ。


 この屈託のなさに警戒感を削がれてしまったのか、気づいたら私は彼を部屋に入れていた。今更ながら後悔している。


「あー、日本の緑茶は初めて飲んだけど、なんだか落ち着くね」


 エッジが両手を後について一息ついた。まあ今は4月ではあるけど、まだお茶が美味しい季節――って、ちょっと待て! エッジに心を許しそうになっている。油断してはいけない。いざとなれば、背中に忍ばせているパン切り包丁で――。


 「感情豊かな日本にっぽん


 「えっ?」


 エッジが視線を合わせてきて片方の口元を上げた。


「茉莉の国のトップが掲げたスローガンだよ。、もう15年が経っていることは君も知っているよね」


 ――涙。


 気安く名まえを呼ぶなと思う中、エッジが今の世界や日本の状況を語り出した。

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