#41 ハイパーカブくん

朝の空気は、少しだけ張り詰めていた。


たぬまりは麦わら帽子をかぶり直し、虫取り網を手に持って畑の中央に立っていた。


頭には、益虫さんが育ててくれたカブトムシ型マモノがぴたりとくっついている。


名前は「ハイパーカブくん」。命名は益虫さん。


甲殻は青白く光り、触れるとひんやりしていて、炎属性の敵に対して冷気を放ってくれるらしい。




【マモノ図鑑に登録されました】




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■登録マモノ:エレメンタルカブト


種族:甲虫変性族


属性:可変(餌により変化)


特徴:艶のある甲殻を持つ中型のカブトムシ型マモノ。背中の魔力腺が餌の属性に反応し、体質が変化する。


生態:魔力を含む果実や鉱物を摂取することで属性が変化する。育てた者の魔力に同調し、頭部に定着する習性がある。


性格:忠実で穏やか。育て主の感情に敏感で、危険を察知すると羽音で警告する。


保有スキル:


《属性変換腺》:与えられた餌の属性に応じて、体質とスキルが変化する。


《魔力冷却膜(氷属性時)》:周囲に冷気を展開し、炎属性のダメージを軽減する。


《羽音警戒》:敵の接近を感知し、羽音で周囲に知らせる。


コメント:今日は氷属性の餌を食べたから、頭がひんやりしてる。でも、ちょっと気持ちいいかも。




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畑の周囲には、準備万端のご近所さんたちが集まっていた。


カカシは虫取り網を肩にかけ、レーキはバットを腰に差し、クサカリは草の中に目を光らせている。


掘ーりー♂騎士はガード用の盾を背負い、フルアーマーを着込んでいる。のーやくは小瓶を並べてデバフの準備をしていた。


益虫さんは、ハイパーカブくんの兄弟たちを他のプレイヤーに配って回っている。




たぬまりは、深呼吸をしてメニューを開いた。


「畑襲撃イベント:防衛戦」——クエストを受ける。




畑の中央に、巨大な虫かごが出現した。


画面には「1/10ウェーブ ラウンド1」と表示される。




「なるほど、そういうシステムか……!」




蝶たちが一匹、二匹と現れる。


羽は淡いピンクで、動きは緩やか。


たぬまりは網を構え、軽く走って一匹を捕まえた。




「よしっ」




周囲でも、みんなが網を振って捕獲している。


お喋りしながら、笑いながら、余裕のある空気が流れていた。




ラウンド5までは順調だった。


「5/10ウェーブ ラウンド5」——表示が変わっても、みんなの動きは変わらない。


掘ーりー♂騎士とのーやくも、まだゆっくりと網を振っていた。




しかし、ラウンド6。


「6/10ウェーブ ラウンド6」——炎を纏った蝶が出現した。




羽が赤く、飛ぶたびに熱風が巻き起こる。


たぬまりは、ハイパーカブくんの冷気を感じながら、網を振るって捕獲を試みる。




「熱っ……でも、いける!」




ハイパーカブくんの冷気が、炎の蝶の熱を和らげてくれる。


いなかったら、火傷のダメージが入っていたかもしれない。




ラウンドが進むにつれ、カメムシも出現した。


緑色の甲殻に覆われ、動きは鈍いが、捕まえても何度もカゴから抜け出す。




「これ、網じゃ無理……!」




歴戦の農家たちが、バットで対応してくれる。


木製のバットが甲殻に当たる音が響き、カメムシは地面に転がって動きを止めた。




「ナイス!」




ラウンド8、9と進むにつれ、数が増えていく。


たぬまりは走り回りながら網を振る。


ハイパーカブくんの冷気が、炎の蝶に対して効果を発揮し続けている。




そして、最終ラウンド——「10/10ウェーブ ラウンド10」




「多い……!」




蝶もカメムシも、数が倍以上に増えていた。


網を振っても、抜けていく虫がいる。


掘ーりー♂騎士がガードしてくれたり、バットで叩いてくれたりする。




「頼もしすぎる……!」




のーやくのデバフも、敵の動きを鈍らせていた。


なかったら、ひらりひらりと抜けられていたはず。




歴戦の農家たちは、網とバットを二刀流して、適切な判断で振るっていた。


素早く、無駄がない。


たぬまりは、ひーひー言いながら網を振り続ける。




「あと少し……!」




最後の蝶を捕まえた瞬間、画面に「防衛成功」と表示された。


作物はノーダメージ。


評価ランクは——S。




「やった……!」




みんなに報酬が配られ、喜びを分かち合う。


たぬまりは、麦わら帽子を脱いで、額の汗をぬぐった。




「正直、みんなが居ないとヤバかった……」




愛情をこめて育てた作物が無事で、本当に嬉しかった。


みんなにお礼を言い、ハイパーカブくんの甲殻をそっと撫でる。




「最後までありがとう。冷たくて、頼もしかったよ」




ハイパーカブくんは、羽を小さく震わせて応えた。


その羽音は、どこか誇らしげだった。

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