#7 魅惑の苔
草原の先、丘の上。
たぬまりは、巨大なボスマモノを遠くから見つめていた。
体高は二階建てほど。甲殻に覆われた胴体、ゆっくりと動く四肢。
背中には苔が生え、小さな木が一本、ちょこんと立っている。
歩くたびに土煙が舞い、ズン……ズン……と地面が揺れる。
《マモノ図鑑》が、たぬまりの横で静かにページを開いた。
「……観察開始」
たぬまりは、草むらに身を潜めながら、じっとボスを見つめる。
距離を保ち、動きを記録する。
しかし——
目が合った。
「あっ」
たぬまりは、内心で慌てながらも、昔何かで見た熊への対応を思い出す。
目を逸らさず、静かに後退り。
《マモノ図鑑》も、ふわりと後退する。
ボスはしばらく睨んでいたが、やがて興味を失ったように視線を逸らす。
たぬまりは、息を吐いて観察を続行。
その後も、何度かボスに見つかる。
そのたびに、目を合わせたまま後退り。
時には木の陰に隠れ、時には岩の裏にしゃがみ込む。
そして——
ボスは、たぬまりを見てもスルーするようになった。
「慣れたな」
たぬまりも、だんだん気が抜けてきた。
観察の合間に、草をむしったり、図鑑に落書きしようとして、図鑑に避けられたり。
そして、気になるのは——
ボスの背中の苔。
ふわふわしていそう。
小さな木も生えていて、木陰になっている。 あそこはいい場所に違いない。
「レッツゴー」
たぬまりは、ボスの足元からよじ登り始める。
甲殻の隙間を手足を引っ掛け、苔の上へ。
木の根元にたどり着くと、ごろんと横になる。
「……いい感じ」
苔は柔らかく、木陰は涼しい。
風が心地よく、たぬまりはそのままうたた寝を始める。
そのとき——
木の枝が揺れ、小さな影がふわりと降りてきた。
それは、葉っぱの帽子をかぶった小さなマモノ。
体は丸く、苔のような質感。
たぬまりの横にちょこんと座り、じっと見つめている。
「……共生してるのか」
巨大なボスマモノと、小さなマモノ。
苔の上で暮らす、ふたりのマモノ。
《マモノ図鑑》が、ふわりと光を放つ。
【マモノ登録完了:巨獣モクガルム/苔精コケリノ】
【経験値を獲得しました】
【レベルアップ! 現在のレベル:10】
■登録マモノ①:巨獣モクガルム
種族:甲獣こうじゅう
属性:土
体高:約6メートル(体長は10メートル以上)
特徴:甲殻に覆われた巨体。背中には苔が密生しており、小さな木が生えている。歩行時に地面が揺れるほどの重量を持つ。
生態:草原や丘陵地帯をゆっくりと移動しながら、土壌を整えるような動きを見せる。背中の苔は自然発生したものではなく、共生マモノ《コケリノ》によって育てられている。
性格:温厚で鈍感。敵意がない限り、周囲の存在には無関心。一定時間観察されると、プレイヤーを「無害」と認識し、スルーするようになる。
弱点:雷属性に弱く、甲殻の隙間に電気が流れ込むと動きが鈍る。
保有スキル:
《大地の歩み》:歩行時、周囲の土壌に土属性バフを与える。
《苔の守り》:背中の苔が衝撃を吸収し、物理ダメージを軽減する。
《共生の庇護》:背中のマモノを守るため、一定範囲に防御フィールドを展開する。
コメント:でかい。くまと一緒。苔がふわふわ。背中で寝れる。
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■登録マモノ②:苔精コケリノ
種族:草精そうせい
属性:草/水
体高:約30cm
特徴:苔のような質感の体に、葉っぱの帽子をかぶった小型マモノ。背中の木の根元に住み、モクガルムの苔を育てている。
生態:モクガルムの背中に定住し、苔の手入れや小さな植物の世話をしている。単体では行動せず、常にモクガルムと共にある。
性格:おだやかで好奇心旺盛。プレイヤーに対しては警戒心が薄く、一定時間近くにいると懐く。
弱点:乾燥に弱く、炎属性の攻撃で苔が枯れると行動不能になる。
保有スキル:
《苔の手入れ》:モクガルムの背中の苔を回復・強化する。
《葉の癒し》:周囲の味方に徐々に回復効果を与える。
《木陰の庇護》:小さな木の下にいる味方に状態異常耐性を付与する。
コメント:ちっちゃい。苔の番人。寝てたら隣にいた。
【新エリア解放:霧の街ミズノハへの道が開かれました】
【図鑑カテゴリ更新:〈共生種〉が追加されました】
たぬまりは、目を細めて小さなマモノを見つめる。
図鑑のページにモクガルムとコケリノの姿が並んで描かれているのを見て、たぬまりはあくびをひとつ。
「ここでもうひと眠りしよ……」と呟いた。
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