第26話


転移した大地は荒涼としていた。

砂を巻き上げる風の中、ユウとリナは並んで歩いていた。


「……本当に、あの二人のところへ戻れるのかしら」

リナが吐き捨てるように言う。


ユウは迷いなく答えた。

「戻る。俺たちの旅は、四人で続けるものだから」


その言葉にリナは小さく目を細めた。

「甘いわね。あんたのそういうところ、嫌いじゃないけど」


荒野を抜け、岩の迷路を越え、時には魔物と剣を交える。

互いの連携はぎこちないが、一歩ずつ噛み合い始めていた。


夜、焚き火を囲んだとき、リナはふと呟いた。

「もしこのまま戻れなかったら、どうするの?」


ユウは迷わず答える。

「それでも進む。……あの手紙を届けるまで」


リナは炎を見つめ、唇をかすかに緩めた。

「ほんと、あんたは変わったわね」


翌朝、二人は再び歩き出した。

目指すは仲間のもと――そして、それぞれの目的地へ。


転移した大地を、ユウとリナは肩を並べて進んだ。

荒野、岩場、時に魔物との小競り合い。

ぎこちないながらも、二人の動きは少しずつ噛み合い始めていた。


夜、焚き火を囲んでリナが呟く。

「ほんと、あんた……昔よりずっとマシになったわね」

ユウは照れ隠しのように火を見つめて答える。

「手紙を届ける。それだけは、絶対に曲げない」


リナは鼻で笑ったが、炎に映る横顔はどこか楽しげだった。


数日の後、霧の晴れるように景色が歪み――

気がつけば、見知った仲間の姿がそこにあった。


「ユウ!」

「お前ら、無事だったのか!」


カイとノエルの声に、ユウは思わず笑みを浮かべる。

リナはそっと視線を逸らしたが、その足取りは軽かった。



再会の喜びも束の間、大地を震わせる低い唸りが森に響いた。

闇の霧を纏った影が現れる。

それは今までの刺客とは明らかに異なる気配――黒衣の影の幹部格。


「……来たか」

ユウが剣を握りしめる。

カイの耳が立ち、ノエルが魔力を練り上げた。


リナは一歩前に出て、刃を構える。

「ふふ、いいじゃない。再会祝いにはちょうどいい相手ね」


影は巨大な鎌を振るい、地面を裂いた。

ユウが前に飛び出し、刃を受け止める。

衝撃で膝が沈むが、背後からカイの拳が炸裂し、ノエルの光が援護する。


「右を頼む!」

「了解!」

「炎、援護するわ!」


そしてリナの刃が、影の隙を正確に裂いた。

ユウとリナ、呼吸を合わせた連携――さきほどまでの旅で培った信頼が、ここで花開く。


黒衣の影は吠え、なおも猛攻を繰り出す。



黒衣の影の幹部は、巨大な鎌を振るいながら、不気味な笑みを浮かべた。

「……お前の動き、どこかで見覚えがあると思ったら」

目がユウを射抜く。

「ガロウの小僧か」


ユウの表情が凍る。

「……師匠を、知っているのか」


幹部は嘲るように声を低めた。

「知っているさ。あの森で邪魔をした剣士だろう? 我が刃の前に散ったわ」


「なに……っ!」

ユウの手が震え、剣を握る力が増す。


「お前の剣筋は奴にそっくりだ。だが――あの男ほどの鋭さはない」

幹部の鎌が光を弾き、空気を切り裂く。

「師を超える力、見せてみろよ。できるものならな!」


怒りで胸が焼ける。だがユウは必死に呼吸を整えた。

「……師匠が託してくれたものを、ここで証明する。

 俺は負けない!」


その声に応じるように、カイが吼え、ノエルが魔力を解き放つ。

そしてリナが並び立つ。

「なら、見せてもらおうじゃない。あんたの“成長”ってやつを」


四人の力がひとつになり、黒衣の影の幹部へと迫っていった――。


黒衣の影の幹部は鎌を振りかざし、咆哮をあげた。

「ガロウを倒した俺に勝てると思うな、小僧!」


ユウは剣を構え、震える心を必死に抑え込む。

脳裏に師の言葉がよぎった。

――「剣を振るうとき、心を乱すな」


(師匠……今こそ、俺は……!)


「カイ!」

「任せろ!」

獣人の拳が幹部の腕を押さえ込み、鎌の軌道をずらす。


「ノエル!」

「光よ、貫け!」

閃光が幹部の目を焼き、動きを止める。


「リナ!」

「行きなさい、ユウ!」

リナの刃が幹部の防御を切り裂き、決定的な隙を作った。


ユウは全身の力を剣に込める。

「ガロウの教えを……俺が証明する!」


叫びとともに放たれた一閃は、幹部の鎌ごとその身を両断した。

闇の霧が爆ぜ、地響きが響く。


幹部は崩れ落ちながら、なお口元を歪めた。

「……小僧……師を……超えたか……」

その言葉を最後に、黒衣の影の幹部は霧散した。


静寂が訪れる。

ユウは剣を下ろし、深く息を吐いた。

心の奥で、師の面影が穏やかに微笑んでいる気がした。


「……見ていてくれましたか、師匠」


仲間たちが駆け寄り、ユウの背を支える。

彼はもう、ただの弟子ではなかった。

――ガロウの教えを継ぐ、一人前の剣士として歩き出していた。

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