第20話
祭壇の光が消え、再び遺跡に静けさが広がった。
けれど三人の胸には、それぞれ確かな熱が灯っていた。
ノエルは水晶を握りしめたまま、奥へと伸びる通路を見つめる。
「……師匠はこの先に進んで、研究を続けている」
ユウは剣を握り直し、頷いた。
「なら僕たちも追いかけよう。きっと答えに近づける」
カイが不敵に笑う。
「どうせ行くしかねぇんだ。だったら一番奥まで行ってやろうぜ」
通路は狭く、壁一面に刻印がびっしりと刻まれていた。
まるで誰かが延々と試行錯誤を繰り返した痕跡のようだった。
「……これも師匠の記録かもしれない」
ノエルが壁に触れ、目を細める。
「何度も転移を試して……出口を探していたのね」
やがて通路の先に広がったのは、巨大な円形の広間だった。
中央には崩れかけた石の台座があり、その上には封じられた扉のようなものが立っている。
淡い光が扉の表面を走り、低い唸り声のような音が響いていた。
「……扉?」ユウが呟く。
ノエルは目を輝かせ、無意識に一歩踏み出した。
「きっと、師匠もここに辿り着いたはず……」
だがその瞬間、広間の空気が揺らいだ。
闇の中から無数の影が浮かび上がり、三人を取り囲む。
「やれやれ……やっぱり簡単には通してくれねぇか」
カイが拳を鳴らし、笑みを浮かべる。
ユウは剣を構え、ノエルは本を開いた。
新たな戦いの予感を前に、三人の視線は固く結ばれていた。
闇からせり出したのは、人の形を模した影の巨像だった。
全身を黒い甲冑に覆い、目だけが赤く輝いている。
その腕には巨大な剣――刃を振り下ろすだけで広間が震えた。
「……でかいな」カイが息を呑み、拳を握る。
「でもぶん殴れない相手じゃなさそうだ」
ユウは剣を掲げ、影の巨像に立ち向かう。
「行こう! ここを越えなきゃ前に進めない!」
ノエルはすぐに詠唱を始め、魔力の光が広間を照らした。
「私が支える! 攻撃の隙を作るから!」
巨像が剣を振り下ろす。
轟音と共に床石が砕け、破片が弾丸のように飛び散った。
ユウは一歩踏み込み、鋭い斬撃で破片を弾き返す。
「カイ、右から回り込んで!」
「おうよ!」
カイが巨像の死角に飛び込み、拳に炎を纏わせる。
「ぶっ飛べぇっ!」
轟音と共に拳が甲冑を叩く――しかし、影の装甲は硬くひび一つ入らない。
「ちっ、カタイな!」
その瞬間、ノエルの魔法陣が完成した。
「――《封縛の鎖》!」
光の鎖が四方から伸び、巨像の動きを一瞬だけ止める。
「今だ、ユウ!」
ユウは力を込め、剣を振り抜いた。
剣先が鎖の光を伝い、巨像の胸部を深々と切り裂く。
赤い光が大きく揺らぎ、影の体が軋んだ。
「効いてる!」
だが巨像はすぐに雄叫びを上げ、鎖を引きちぎった。
衝撃波が三人を吹き飛ばし、壁に叩きつける。
「ぐっ……!」
「まだだ……!」
それでも立ち上がる三人。
ユウの目はまっすぐに巨像を捉え、剣を再び構えた。
「僕たちは、ここで止まらない!」
広間に、再び戦いの火花が散った――。
影の巨像の剣が振り下ろされる。
三人は避けきれず、広間に絶望の風が吹き荒れた――。
その瞬間。
「情けないな。まだ倒れるには早いだろう?」
鋭い声と共に、眩い閃光が走った。
巨像の腕に斬撃が刻まれ、その動きが止まる。
ユウは目を見開いた。
「……師匠!」
そこに立っていたのは、旅立ちの日に別れたあの剣士。
かつてユウに剣を授け、一人前の証としてこの旅を命じた人物だった。
「ここで会うとはな。だが挨拶は後だ」
師匠は構えを取り、ユウの前に立つ。
巨像が怒りの咆哮を上げる。
だが師匠は涼しい顔で、軽く肩をすくめた。
「お前たちの成長を、ここで見せてみろ。――俺が作る隙を逃すな!」
次の瞬間、師匠の剣が閃き、巨像の動きを切り裂いた。
その一太刀は決定打ではない。だが圧倒的な速さで、確実に一瞬の隙を生み出す。
「ユウ!」カイが叫ぶ。
「ここで決めろ!」ノエルも詠唱を重ねる。
ユウは師匠の背中を見つめ、深く息を吸い込んだ。
剣を握る手に、震えはなかった。
「――はい!」
ノエルの光の魔法が巨像を縛り、カイの炎がその胸を焼く。
そして最後にユウの剣が、真っ直ぐに巨像の核心を貫いた。
轟音と共に、影の巨像は崩れ落ち、赤い光が霧散する。
静けさの中、ユウは肩で息をしながら振り返った。
そこには師匠が立ち、わずかに口元を緩めていた。
「……よくやったな、ユウ。お前はもう、ただの少年じゃない」
その言葉に、ユウの胸が熱く震えた。
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