第11話
雪原の道。
ユウとカイは並んで歩いていた。
風は冷たく、空はどこまでも白い。
「なあユウ」
カイが口を開いた。
「あの影もリナも……結局、何が正しいんだろうな」
ユウは答えられなかった。
黒衣の影は「手紙が世界の救い」と言った。
リナは「渡せば命を落とす」と言った。
正反対の言葉。
でも、どちらもただの嘘に思えなかった。
「……だから届けるんだ」
ユウは手紙を握りしめる。
「誰がなんと言おうと、ぼくの目で確かめる」
カイが少し笑った。
「だよな。
オレはただ、お前が死なないように全力で守るだけだ」
その言葉にユウは胸が熱くなった。
ふと、遠くの山並みに光が瞬いた。
まるで極光の欠片が導くように――
「あれだ」
ユウが指を差す。
「次の目的地」
二人は雪を踏みしめ、北へと歩を進めた。
空は重く、風は荒ぶる。
だがその胸には、揺るぎない炎があった。
北の山を越えた先、雪原の奥に口を開ける洞窟があった。
入り口は崩れた石造り。
それは自然の洞窟ではなく、古の建築の跡だった。
「……ここ、王国の遺跡か?」
カイが呟く。
ユウは懐から極光の欠片を取り出した。
結晶は淡い光を放ち、まるで奥へ進めと導いているようだった。
二人は慎重に中へ入った。
氷に覆われた回廊、崩れ落ちた石柱、壁に刻まれた古い紋章。
「これ……図書館で見たのと同じ紋章だ」
ユウの声が震える。
祠の奥に広間があった。
石の台座の上に、凍りついた巻物が置かれている。
ユウが近づくと、欠片が光を強めた。
氷が溶け、巻物が姿を現す。
そこに刻まれていたのは――
王家の血統を示す系譜と、ある一つの名前。
「アレク・ルシオン」
ユウは目を見開いた。
「これ……手紙に記されてた署名と同じだ」
カイが息をのむ。
「じゃあ、手紙の送り主は……最後の王子、ってやつか?」
ユウの心臓が早鐘を打つ。
本当に届けなければならないもの。
それはただの手紙じゃなく――滅んだ王国の生き残りの意志だった。
そのとき。
遺跡全体が低く唸りを上げ、壁の紋章が赤く光った。
「やばい、仕掛けか!」
カイがユウを引き寄せる。
氷の天井から轟音とともに崩落が始まった。
二人は出口へ駆け出す――。
崩れゆく遺跡を駆け抜け、ようやく雪原へ飛び出した。
胸を上下させながら振り返ると、背後の洞窟は轟音とともに塞がっていった。
「ふぅ……助かった……」
カイが膝に手をつき、息を吐く。
そのとき――
吹雪の中に、黒い影が立っていた。
「……待っていたぞ」
フードの下から赤い光がのぞく。
先日戦った黒衣の影だ。
「またお前か!」
カイが剣を構える。
影はゆっくり歩み寄り、ユウを見据えた。
「少年。遺跡の巻物を見ただろう。
ならば理解したはずだ――その手紙は“王子の遺言”。
世界を滅ぼす火種だ」
ユウの胸がざわめく。
「……どういう意味だ?」
「その手紙を届ければ、かつての王国が再び血を呼ぶ。
同じ悲劇を繰り返すのだ」
影の剣が、雪明かりを受けて黒く光った。
「だから渡せ。お前の使命は欺瞞だ」
カイが前に出る。
「黙れ! ユウは――自分で選ぶんだ!」
二人は剣を構え、影に挑む。
氷狼の試練で得た力を、今こそ示すときだった。
雪原に鋼の音が響く。
影の剣が容赦なく振り下ろされ、ユウとカイは必死に食らいつく。
だが影の力はなお圧倒的だった。
「まだ足りぬ。
氷狼の牙では、闇を裂けぬ」
ユウの腕が震える。
それでも、後ろに隠した手紙だけは決して離さなかった。
「……渡さない! 何があっても!」
影の剣が振り下ろされる――。
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