第7話

図書館を離れたユウとカイ。

目指すのは、さらに北――雪に覆われた荒野。


「なあユウ」

カイが歩きながら口を開く。


「学者の話とリナの話、どっちを信じる?」


ユウは答えられなかった。

手紙を握る手に力が入る。


「わからない。

 でも……自分で確かめたい」


その言葉に、カイは少し笑った。

「だよな。オレもそう思う」



北の地は厳しかった。

吹きすさぶ雪。

体温を奪う冷気。


「うわ、足が埋まる!」

カイが転んで雪に沈む。


「しっかり!」

ユウが手を引き上げる。


凍える道を進むうち、二人の息は荒くなっていった。


だが――その先に見えたのは、氷に閉ざされた古い祠だった。


「……なんだ、あれ」


雪煙の中に、ただ一つ、黒々と口を開ける洞。


冒険者の直感が告げていた。

そこには、旅を進めるための“何か”が待っている。


氷に閉ざされた祠。

ユウとカイは足を踏み入れた。


内部は静かだった。

凍りついた壁に灯りが反射し、青白く光っている。


「……寒いな」

カイが身震いする。


そのとき――

奥から低い唸り声が響いた。


ずしん。

ずしん。


巨大な影が現れる。

白銀の毛並みを持つ狼。

目は氷のように青く、牙は鋭く光っていた。


「で、でけえ……!」


狼は二人をじっと見つめ、声なき声を放った。


――来る者よ、試されよ。


頭に直接響くような声。

ユウは息をのんだ。


「試される……って?」


狼の足元に、氷の剣が二本、突き立った。


一つはユウの前に。

一つはカイの前に。


「これを持て、ってことか?」

カイが剣を手に取る。

冷気が走り、歯を食いしばった。


ユウも震える手で剣を握った。


氷狼の瞳が光を増す。


――力だけではなく、心を見極める。


次の瞬間、狼が飛びかかった。


「来るぞ!」

カイが叫ぶ。


二人の冒険は、ここで真の試練を迎えようとしていた。


氷の剣を握りしめ、ユウとカイは同時に駆けた。


「はああっ!」

「うおおっ!」


剣が光を放ち、狼の巨体に斬りかかる。

だが――


がぎん!


一瞬で弾き返された。


「なっ……強すぎる!」


氷狼の尾が唸り、二人は壁に叩きつけられる。

冷気が肺を刺す。

立ち上がろうとするが、膝が震えて動かない。


狼の青い瞳が、ふっと細められた。


――今のままでは、何も守れぬ。


その声は、厳しいが温かかった。


「……負け、か」

ユウが唇を噛む。


――されど、まだ終わりではない。


狼が前足を地に叩きつける。

氷の床に、模様が浮かび上がった。

それは古い戦いの型を描いたものだった。


――我が力を示そう。

 試練を越えるために、心と体を鍛えよ。


「お、おい……」

カイが驚きに目を丸くする。


「特訓……してくれるのか?」


氷狼は低く唸り、頷くように顔を傾けた。


――立て。まだ剣を握れるなら。


ユウとカイは視線を交わし、再び剣を握り直した。


氷の祠に、少年たちの声が響いた。

新たな師を得て、彼らの旅はまた一歩進む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る