第5話
北の街を出て、森を抜ける道を歩いていた。
鳥の声。
木々のざわめき。
ふと、その奥から低い唸りが聞こえた。
「……?」
茂みをかき分けると、そこにいたのは――獣耳を持つ少年だった。
ぼろぼろの服。
両手には縄。
そして目の前には、大きな罠にかかった熊のような魔獣。
少年は必死に縄を引き、獣と格闘していた。
「ぐっ……動くなよ!」
獣の咆哮が響く。
ユウは思わず飛び出した。
「手伝う!」
二人で力を合わせ、なんとか獣を追い払うことができた。
荒い息のあと、獣耳の少年がこちらを見た。
「……助かった。オレはカイ。森の者だ」
「ぼくはユウ。旅をしてる」
「旅、か……」
カイは遠くを見た。
「オレも群れを出てきた。理由は……話せない」
一瞬、寂しそうに耳が伏せられた。
ユウはその気持ちが少し分かる気がした。
「もしよかったら、一緒に行かない?」
カイは驚いた顔をした。
そして、少し照れくさそうに笑った。
「……いいのか?
じゃあ、オレも旅の仲間だ!」
森を抜ける風が二人の間を吹き抜けた。
新しい旅が始まる予感がした。
第十三章 凸凹コンビ
森を抜けた道。
ユウとカイは並んで歩いていた。
「なあユウ。旅ってのは、もっと走っていくもんだろ?」
「ちょ、ちょっと! そんなに急いだら――」
言い終わる前に、カイは木の枝にひっかかって転んだ。
「いってぇ……!」
「だから言ったのに……」
ユウは思わず笑った。
しばらく歩くと、小さな村に着いた。
市場で果物を見ていると、カイの目が輝いた。
「うまそう! なあユウ、あれ食おうぜ!」
「お金は?」
「……ない」
「ないって……!」
仕方なくユウが払うと、カイは大きな口でガブリと食べた。
「んー! うまい!」
その無邪気さに、ユウはつい笑ってしまう。
夜、村の外で野宿。
「なあユウ。お前、何で旅してるんだ?」
「手紙を届けるため。一人前になるために」
「ふーん……オレも似てるな」
「似てる?」
カイは星を見上げた。
「オレも群れを出たのは……一人前になるためさ」
風が吹き抜け、二人の間に少しだけ静けさが落ちた。
まだぎこちないけど――
どこか似たもの同士。
少しずつ、仲間になっていく。
第十四章 嵐を呼ぶ女
村の広場。
ユウとカイが井戸の水で顔を洗っていると――
「あら、こんなところで会えるなんて」
背筋が凍る声。
振り向けば、リナがいた。
「リナ……!」
彼女は腰に短剣を差し、にやりと笑っている。
「また会ったな、少年」
カイが眉をひそめる。
「誰だ、こいつ」
「ライバル……みたいなもの」
ユウは小声で答えた。
「ライバル? へぇ……面白い顔してるな、ケモノ君」
リナはカイに近づき、しっぽをつまもうとする。
「や、やめろ!」
カイは真っ赤になって飛び退いた。
村人たちがくすくす笑う。
リナはわざと大げさに肩をすくめてみせた。
「安心して。今日は奪いに来たわけじゃない」
「……本当か?」
「ええ。
でも、忠告しとくわ。黒衣の連中……あれ、本気でやばい」
ユウとカイが顔を見合わせる。
「お前、知ってるのか?」
ユウが問うと、リナは視線を逸らした。
「まあね。
でも詳しくは教えない。少年、ちゃんと自分で考えなきゃ」
そう言ってリナは踵を返す。
「じゃあ、また。……次は奪うからね」
ひらひらと手を振り、群衆に紛れて消えた。
カイはしばらく口をぽかんと開けていた。
「……なんだあの女」
ユウは胸の奥がざわつくのを感じながら、
手紙を握りしめた。
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