第3話
山道を越えたときだった。
「ずいぶん強くなったじゃない、少年」
その声に、胸がざわめいた。
振り返れば――リナ。
木陰に腰かけ、短剣をくるくると回していた。
「……また来たのか」
「もちろん」
彼女は笑う。
「あたしは言ったよね? 次は本気で奪うって」
次の瞬間、リナが飛び込んできた。
鋭い刃。
反射的に木の枝を拾って受け止める。
ガキィン!
火花が散った。
前なら倒れていた。
でも今は――足が動く。
「へえ……やるじゃん」
リナは笑いながら、さらに斬り込んでくる。
ぼくは必死に枝を振り回し、なんとか食らいついた。
息が荒い。
でも、心の奥は熱く燃えていた。
――ガロウさん、見ててくれ。
この一撃は、無駄にしない。
枝と刃がぶつかり合う。
何度も、何度も。
息が切れて、腕が震える。
けれど、不思議と心は折れなかった。
「はぁっ……!」
最後の力で枝を振り下ろす。
リナの短剣が、それを受け止めた。
しばらく押し合ったあと――
リナはふっと力を抜いた。
「……ここまでか」
彼女は短剣を引き、軽やかに後ろへ飛び退いた。
「やるじゃん、少年。前の君なら、もう泣いてたよね」
「……っ」
息が荒い。言葉にならない。
リナはくすりと笑った。
「決着はつかない、か。
でも――悪くない。
もっと面白くなりそうだし」
そう言って背を向ける。
「次は本気で勝つから」
森の奥へ消えていくその姿を、ぼくはただ見送った。
手紙はまだ、ポケットにある。
けれど、不思議と胸の奥が熱くなっていた。
敵と戦ったはずなのに――
負けたくないって気持ちが、力に変わっていた。
山を下りて、草原の道を歩いていた。
風が気持ちよくて、少しだけ気が緩んでいたそのとき。
――カサッ。
背後で、乾いた音がした。
振り向いた瞬間、心臓が凍りついた。
黒いフードをかぶった集団。
三人。いや、もっといる。
「少年……それを渡せ」
低い声が、耳に突き刺さる。
「な、何のこと……」
「とぼけるな。
宛先のない手紙――我らが探しているのは、それだ」
背中に冷たい汗が流れた。
リナとは違う。
この人たちからは、遊び心なんてひとかけらも感じない。
「渡せば命は助けてやる」
黒衣の男が一歩近づく。
その目は、光のない深い闇みたいだった。
足がすくむ。
手が震える。
けれど――ポケットの手紙を握ったとき、ガロウの声が蘇った。
立ち上がり続けろ。諦めなければ、一人前になれる。
「……渡さない!」
震える声でそう叫んだ。
次の瞬間、影たちは一斉に襲いかかってきた――。
黒衣の影が、一斉に襲いかかってくる。
枝を振り回して必死に応戦するけど、全然歯が立たない。
「くっ……!」
すぐに腕をねじ上げられ、地面に叩きつけられた。
息が詰まる。
「手紙を渡せ」
闇の声が、耳元でささやく。
もうだめだ――そう思った、そのとき。
「少年にちょっかい出してんじゃないわよ」
鋭い声とともに、影のひとりが吹き飛んだ。
見れば、そこに立っていたのは――リナ。
短剣を逆手に握り、獣みたいに笑っている。
「まったく……あたしが奪う前に、他人にやられたら困るでしょ?」
影たちがざわめく。
「邪魔をするな、女!」
「するに決まってんでしょ。
この子は、あたしの獲物なんだから!」
リナが飛び込み、黒衣の男たちと刃を交える。
その動きは、目にも止まらぬ速さだった。
……なんで。
彼女は敵のはずなのに。
どうして、助けてくれるんだ。
「立ちなさい、少年!」
リナの怒鳴り声が響いた。
「立たなきゃ、一人前になれないでしょ!」
その言葉に、体が勝手に動いた。
枝を握りしめ、再び立ち上がった――。
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