村長から渡された手紙がとんでもないものだった! ―少年ユウの一人前になるための旅―

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第1話

「ユウ、お前も、そろそろ一人前になりたいか?」

村の長老がそう言ったとき、ぼくはうなずけなかった。


一人前――

それは、子ども扱いされないってこと。

誰にも守られず、自分の足で立つってこと。


でも、ぼくにできるだろうか。

長老はゆっくりと、机の引き出しから一通の手紙を取り出した。


古びた封筒。

けれど、不思議なほど強い存在感を放っている。


表には、宛名も住所も書かれていない。


「これを届けてこい。

 宛先は、お前の旅の中で必ず見つかる」


そう告げられた瞬間――

胸の奥で、何かが小さく鳴った。


逃げてばかりのぼくの旅は、

この手紙から始まったんだ。


朝の空は、やけに青かった。


村の出口に立つと、足がすくんだ。


手紙は、ポケットの中。

そこにあるだけで、心臓がドクドクとうるさい。


「一人前になるんだ」


自分にそう言い聞かせて、ぼくは一歩を踏み出した。


森の中の道は、まだ静かだった。

木漏れ日と、鳥の声。

それだけが、ぼくを迎えてくれる。


だけど――

突然、茂みがガサリと揺れた。


「わっ!」

思わず声を上げたぼくの前に、

飛び出してきたのは、一人の少女だった。


汚れたマントに、鋭い目。

けれど、口元にはいたずらっぽい笑みが浮かんでいる。


「ねえ、君。ひとりでこんなとこ歩いて、何してんの?」


ぼくは答えられなかった。

ただ、ポケットの中の手紙を、ぎゅっと握りしめた。


「……答えられないの?」

少女はじっとぼくを見つめた。


その目は、ただの興味じゃなかった。

獲物を狙うみたいに、鋭く光っていた。


「ふーん。ポケットにあるんでしょ?」


心臓が跳ねた。


「な、なにを――」


「隠さなくていいよ。手紙」

少女はにやりと笑った。


どうして知ってる?


「それ、あたしも探してたんだ」


次の瞬間、少女の手が伸びてきた。

ぼくはとっさに飛び退く。


森の道に、緊張が走った。


――ライバル。


ぼくは、この旅の最初の敵に出会ったのかもしれない。


少女は、にやりと笑った。


「あたしの名前は――リナ」


そう名乗ると、マントの裾を翻して一歩近づく。


「その手紙、あたしがもらってもいいよね?」


「だ、だめだ!」


ぼくの声に、リナは肩をすくめた。


「へえ。

じゃあ……力づくで取るしかないかな」


リナの手には、いつの間にか短剣が握られていた。


月明かりに光る刃。

心臓が凍りつく。


「ほら、どうする?少年」


その挑発的な笑みを見て、ぼくは悟った。


彼女は敵。

でも――敵だけじゃない。


瞳の奥には、どこか寂しげな影があった。


リナが短剣を構えた瞬間、

ぼくは反射的に走り出した。


森の道を、必死に駆け抜ける。

枝が顔に当たっても、転んでも、止まれなかった。


「待ちなよ!」

リナの声が背中に追いかけてくる。


心臓は破裂しそうだった。

ポケットの中の手紙が、やけに熱い。


どれくらい走ったのか分からない。

気づけば、森を抜けていた。


ぼくは膝に手をついて、荒い息を吐いた。


――奪われなかった。

手紙は、まだここにある。


だけど。


「また会おうね、少年」


遠くから響くリナの声。

それが、風に乗って耳に残った。


きっと、次も狙われる。

彼女はあきらめない。


胸の奥で不安が渦巻いたけど……

同時に、なぜか心臓が高鳴っていた。

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