追憶

 一年前に連絡が途絶えた恋人から、突然手紙が届いた。


 同期入社の彼は私と同い年で、地元が近かったこともあり、仲良くなるのに時間はかからなかった。

 そして私にはウェブ小説の執筆、彼には物語の朗読配信という似通った趣味があることがわかると、一気に距離は縮まった。


 少し喧嘩をすることはあったけど、私たちは仲良く、ゆっくりと愛を育めていると感じていた。


 でも、ある秋の日に、彼は突然会社を去り、私の前から姿を消した。


 彼のアパートもスマホも解約されていて、もう連絡の取りようがなかった。


 私は酷く落ち込んで、趣味の執筆もできなくなった。



 そんな状態で過ぎた一年の月日が、便箋を開いたときに漂ってきたローズマリーの匂いが呼び起こした。


 ローズマリーのアロマを彼はとても好きで、執筆中に集中力が高まるからと言って、私にも度々プレゼントしてくれた。


 便箋には、彼のではない字で、つい先日、彼が闘病虚しく癌でこの世を去ったことが書かれていた。


 同封されていた彼の字の便箋には、私と離れて後悔している気持ちと、それでも私が彼を忘れて前を向けるよう神様に願う気持ちが所狭しと綴られていた。


「忘れることなんて、できるわけないじゃない……」

 ローズマリーの匂いが、彼との幸せな時間をどんどん思い出させる。


 私の物語を初めて朗読配信したときに、緊張し過ぎてつっかえつっかえになったこと。

 騒がしくも楽しく愛を深めあった、お互いにとっての初めての夜のこと。

 初めてのピクニックデートの帰り道で迷ってしまって、心霊スポットに着いちゃったこと。

 なかなか本音を言い出せない彼にやきもきさせられたこと。


 今でも愛しくて、寂しくて、もう会えないことが辛くて、私は声をあげて泣いた。



 彼の手紙の最後に『僕のことは忘れて、素敵な人と結ばれてね』と書いてあった。


 相変わらず本音ではない言葉。

 でも、ローズマリーは、彼の本音を私に伝えてくれた。


 付き合ってすぐ、彼はローズマリーの花言葉を私に教えてくれた。


『追憶』

『変わらぬ愛』

『私を忘れないで』





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