安心するのは未だ早い!

 ファミレスを出て14号を東進し千葉市に向かう、此処迄はあえて常識内の運転、指示速度を少し超えた位で車の流れに乗って駆け抜ける。


 126号線東金街道へ入り更に東へと向かっている、坂月の交差点を越えてから本番を予定しているもう既に日付けも変わり時間的にはもう直ぐ02時頃だろう、流石に此の時間だ東金街道に車は殆ど通って無い、偶に貨物の大型と擦違う位で今の所は予定通りと言う事か。


「何処まで行くの、もう帰ろうよ?」

 と後ろから大きな声が聴こえるが無視を決め込む、御誂え向きに坂月交差点の信号は赤で停車する。

「今海が見たくてな!」

「此の時間に行っても真っ暗じゃん、それより眠いよ早くしないと出来ないよ?」

 此奴未だ言ってやがる、ラブホか何かに入るとでも思ってんだろうな…。

「もう直ぐに着くぞ、今は坂月だからもう少しだけ我慢しろ!」

 今の居る場所を伝えると答えが返って来る、この辺に多少土地勘が在るみたいだな。


「此処からだと海迄一時間位係るじゃん!」

 と返って来た。


「安心しろ!、大丈夫此処から30分係らない兎に角しがみ付け!」

 と伝えた時に青に成った、フルにスロットルを開けセカンドで一度戻し直ぐフルにする、フロントが持ち上がり其の侭200メートル位維持、フロントが着地し更に加速、直ぐに最初のコーナーへ4速全開ノーブレーキで突っ込む。


 後は大台を越えて進んで行くだけ、しがみ付いた手も背中に伝わる体も震えている、キツイコーナもブレーキングは短く、スライドしてもスロットルワークのみで駆け抜ける、此の速度でYAMAHAのオフロードモデルだリアのタイヤの動きに合わせてスイングアームは激しく動き続ける、そうリアのステップに乗せられた脚にも同じ様に動きが伝わる、さぞ怖い思いをしているだろう。その矢先急カーブ注意の標識が現れる。


「急カーブだよ‼」

 と大声が聞こえるが、俺の田舎に比べればこんなのは高速コーナーだ!。

 短くブレーキングしスロットルを回しリアをスライドさせる、ズルズルとアウトにタイヤが流れて行く感覚も脚に直に伝わる振動で此奴は感じ取って居る筈だ、流石に集落の有る処は抑えては居るが其れでも一般人なら十分恐怖を感じるだろう、まぁ仕事で本気で走って居る時よりは大分抑えて走ってはいるがな。


「怖い!、怖い!」

 後ろから声はするが腐った性根を叩き直すには良い薬だ。最後迄手綱を緩める気は無い・・。

 其の侭目的の場所までスロットルを開けて駆け抜けた。



 海の音と潮の香りが漂い目的地はもう直ぐ、海岸に出る為の階段と例の展望台が見え目的地に着いたと安心したのだろう、掴まる手から力が抜けた。

 <バ~カ!、安心するのは未だ早いんだよ!>

 少し速度を落として期待させてやる、でも速度は其処で維持し緩めない。


「ぶつかる!、ぶつかるよ‼」

 と後ろで叫ぶ声が聴こえる、最後だもう一回懲りろ!、其の侭シフトダウンしスロットルを開けフロントの加重を抜き階段を駆け登り低く飛ぶ。停止と同時にアクセルターンで展望台へ向きを変え其の侭一気に駆け上がり展望デッキに到着、XTのエンジンを停めても背中から伝わる震えは其の儘だ、さぞ怖かった事だろうが是で知らぬ奴に付いて行く事の怖さに気付き懲りて呉れれば良いんだが。


「ホラ降りるぞ!」

「うん…」

 声を掛けるがしおらしい返事はするものの立ち上がれないみたいだ。


 サイドスタンドを立て慎重に車体を支えて先に降りる。

「自分で立て無いのか?」

 声を掛けて脇腹を持って立たせてやるが抵抗も嫌がりもせず素直に立ち上がるのだが、足が小刻みに震えていて自力で降りるのは無理そうだ。

「しょうがないな、胸に当たるかもしれんが勘弁しろよ?」

 其の侭脇に手を入れそっと持ち上げるが嫌がりもしない、其れ位に怖かったと言う事か。其の侭抱き上げて降ろしてやるが凄く軽い…、まるで子供を抱き上げてる様だ。


 其の腕に伝わる重みに何でこんな子がそんな馬鹿な事してるんだ?、純粋に疑問を持って仕舞う…。

「どうだ?オフ車ってホントに遅かっただろう?」

 嫌味っぽく聞いてみた、未だ少し震えている。

「もっと早いのオンロードバイクは?」

 返事は返って来たが更に疑問をぶつけて来る。

「一般道じゃ大して変わらんさ!」

 そう答えて上げる、前にあの人と話した時間より早い時間だが季節も進んで居るからか空はもう白み始めて居る。

「でも遅いって言ってたのに、あんなに速くて怖かった・・」

 思い出したのだろう身震いしていた。


「おや、お嬢ちゃんトイレかな?」

 とからかったのだが。

「違う‼」

 と怒り出した。今誂った事で震えは止まった様だが続けて小さな声で囁いた。

「ちょっと、出ちゃった…」

 そう呟いたのは聞き逃さなかった。


「怖かっただろう、遅いっていうバイクでもさ?」

「速かったでも何で遅いなんて事言ってたんだろう、どうしてなの?」

 首を振りながら聞かれた。


「適材適所って知ってるか?そうゆう事」

 首を傾げてる、コイツ本当に解って無いのか?。


「勿論サーキットに行けば、此奴じゃ全く歯が立たないさ、あっちは200キロ位は越えるし、こっちは踏ん張って出しても130キロ止まり、追い付けもしないさ」

 頷いている。


「でもな一般道でそんなに出せるか?、出せないだろうだからオンもオフも変わらない。」

 ようやく理解した様だ、頷いている。

「怖かっただろう、ゴメンな」

 明るく為ってきた。


「それじゃあ家出の理由教えて呉れるかな?」

 此方は是からだ。親にこっ酷く叱られる事には為るだろうが是に懲りて以降こう言う事を止めて呉れれば良い、そう命が在っての事だからな…。


 此の苦労が此の子の実に為ったのか?、其れは未だ判らない。

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