第47話 フローラの戸惑
ロゼリア王国に留学して以来、わたくしの生活は、聖王国の神殿での日々とは全く違うものになりました。その原因は、他でもない、あのリリ様にございます。
「フローラちゃん! 今日はね、『飲むと身体がスッキリする不思議な紅茶』を作ってみたんだ! フローラちゃんにも試してほしいな!」
リリ様は、いつも無邪気な笑顔で、奇想天外なものを作り出されます。わたくしは、聖女としての矜持を保とうと、努めてお淑やかに振る舞いますが、心の動揺は隠せません。
(まぁ!『飲むと身体がスッキリする紅茶』ですって!? 聖魔法でも、そこまで即効性のあるものは、精製が難しいというのに……。それを、この方は『紅茶』として、日常の中で生み出してしまうのですわ!)
そして、リリ様が作られたものは、いつも想像を絶する効果を発揮します。ある時は、「一瞬で服が新品のようになる柔軟剤」。またある時は、「食べると知恵が湧く不思議なクッキー」。
その度に、わたくしは心の中で土下座をしています。あの初対面の日の出来事以来、わたくしの中でリリ様は、もはや**「友人」ではなく「神の使徒」**なのです。
「リリ様、その**『不思議な紅茶』をいただく前に、まず、わたくしにご説明いただけますでしょうか? どのような機序で、その……『スッキリ』**効果が発現するのか、興味がございます」
「え? えーっとね、それはね……。えへへ、『優しさの魔法』だよ!」
リリ様は、いつも満面の笑みで、そうお答えになるのです。わたくしの持っている聖魔法の知識など、リリ様の前では、全く通用しません。
社交界の話題の中心
そして、わたくしをさらに戸惑わせるのは、ロゼリア王国の社交界です。
お茶会や夜会に出席すれば、話題の中心は、必ずリリ様なのです。
「フローラ様は、リリ様と親しいと伺っております。先週発表された『腐らない保存食』は、本当に画期的ですわね! あれがあれば、もう、食糧不足で困ることはありませんわ!」
「ええ、本当に。わたくし、リリ様から直接、『フローラル石鹸』をいただきましたの。肌が、本当にツルツルになるのよ!」
わたくしが、聖王国の教皇の孫という立場でありながら、令嬢たちはわたくしよりも、リリ様との交流を羨ましがります。
(まったく……! わたくしは、聖女として、この国に来たというのに、皆様の興味は、すべてリリ様の発明品にございますわね)
しかし、わたくしも、リリ様への尊敬の念が深まるばかりです。リリ様が作るものは、すべてが人々の生活を豊かにし、笑顔にするものだからです。
「フローラ様、リリ様は、その『生活魔法』で、本当に人々の心を掴んでいらっしゃる……。まるで、聖人のようですわ」
「ええ、その通りですわ。わたくし、日々、リリ様の隣で、『真の聖女とは何か』を学ばせていただいております」
わたくしは、そう答えながら、心の中で強く誓うのです。
(わたくしは、聖女として、リリ様が「ただの平民」として不当な扱いを受けないよう、全力でお守りしなければなりません! そして、リリ様の規格外の発明を、世界に広めるお手伝いをしなければ! たとえ、そのたびに土下座する羽目になろうとも!)
そんなリリ様が今辺境の森で、ドラゴンを助けたいとおっしゃっています。
確かに、ドラゴンの咆哮は悲しげに聞こえます。
私は、決意します。リリ様が助けたいとおっしゃるなら、私はそれを手助けいたします。
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