第40話 聖女様のお茶会デビュー
王宮の一室で、華やかなお茶会が開かれました。主催は、ユリウス殿下の婚約者であるエレノア様です。招待されたのは、聖王国から留学してきた聖女フローラ様と、王都の上位貴族の令嬢たち。
「フローラ様、ロゼリア王国へようこそ。わたくしどもの国での滞在が、良い思い出となることを願っております」
エレノア様は、優雅に微笑みながら、フローラに紅茶を勧めました。
フローラは、白磁に金銀の刺繍を施した、聖女正装の神官服に身を包み、淑やかに挨拶を返します。
「エレノア様、ご招待ありがとうございます。この国の皆様は、皆様、大変お優しくて、わたくし、感動しておりますわ」
「さ、堅苦しいあいさつはこれぐらいにして、早速いただきましょう。今日はリリ様の新作だそうですから」
(まぁ、このお茶菓子……! 噂のリリ様が作られたというケーキですのね! わたくし、生まれて初めていただきます!)
フローラは、事前にユリウス殿下から聞いた、リリが作ったというイチゴのショートケーキを一口運びました。
「……っ!」
その瞬間、フローラの瞳が大きく見開かれました。
「フローラ様、どうかされましたか?」
エレノア様がにこやかにに尋ねます。
なんだか、してやったり感が伝わってきます。
フローラは、感動を隠しきれない様子で答えました。
「い、いえ……! このケーキというお菓子は……! 『まるで、天上の味がしますわ!』 こんなにも、心が洗われるような、優しい甘さは、わたくし、聖王国のどんな最高級の菓子でも、経験したことがありません!」
周りの令嬢たちも、口々にリリのケーキを褒め称えます。
「ええ、リリ様のお菓子は、本当に格別ですわ」
「この紅茶も、リリ様が淹れた方が、もっと美味しくなるんじゃないかしら?」
フローラは、皆の会話から、リリという少女が、この王宮でいかに愛されているかを理解しました。
その時、お茶会の扉が、控えめに開きました。
「皆様、遅れて申し訳ありません! 新作のフローラル石鹸が完成したので、お配りしにきました!」
バスケットを抱え、地味な平民服に、少しばかり汚れたエプロンをつけた小さな少女が、遠慮がちに部屋に入ってきました。その少女は、もちろんリリです。
令嬢たちは、リリの登場に慣れている様子で、口々に声をかけます。
「まぁ、リリ様! 新作の石鹸ですか!」
「リリ様のお石鹸は、お肌がツルツルになるから、楽しみですわ!」
リリは、にこにこと笑いながら、バスケットから石鹸を取り出します。
「皆様には、また感想をお願いします!」
フローラは、その小さな少女を、じっと見つめていました。
(あの地味な平民服の少女が……リリ様……?)
しかし、次の瞬間、フローラの体が、勝手に動いてしまいました。
リリが部屋に入ってきた瞬間、フローラの聖女としての鑑定眼が、少女の全身を覆う規格外の魔力を捉えたのです。その魔力の光は、優しく、温かく、そして、あまりに巨大で、神々しく、そこに太陽があるかと感じたのです。
フローラは、頭が真っ白になりました。
(な、なんて神々しい……! この方は、聖女などという枠に収まる方ではない! これほどの魔力を持ちながら、傲慢さがない。神の慈愛?……! ま、まさに、神の申し子!!)
フローラは、思わず椅子から立ち上がると、リリに向かって、その場で土下座してしまいました。
「『あ、あなた様が、リリ様でいらっしゃいますか……!?』」
フローラの、あまりに突然の行動に、その場にいた全員が、静まり返りました。
リリは、土下座するフローラを見て、目をぱちくりさせました。
「えっ? どうしたの? お腹でも痛いのかな?」
リリは、バスケットを床に置くと、心配そうにフローラに駆け寄りました。
「あ、あの……わたくしは、聖王国のフローラと申します! 」
(まさか、あなた様ほどの御方が、わたくしがお友達など烏滸がましい……! 「ぶ、無礼をお許しください! わたくし、あなた様の足元にも及びません!」
フローラは、涙目になりながら、平伏したまま、そう訴えかけました。
「えっと、あの……私、リリだけど……。大丈夫だよ! お腹、痛くないなら、早く立って!」
リリは、困惑しながらも、フローラを優しく抱き起こそうとしました。
「いえ、貴方様にお会いして、お友達に考えておりました、わたくしなど」
「え、お友達になってくれるの?嬉しいな。フローラちゃんって呼んでいいかな?」
「も、もったいないお言葉です。リリ様」
「リリでいいよ、そんな畏まらなくていいしね。さ、一緒お茶しよ、あ、ケーキお代わりする?新作なんだ、感想聞かせてね」
こうして、フローラはリリとお友達認定されました。
エレノア様と令嬢たちは、この予想外の事態に、ただただ呆然と立ち尽くすばかりでした。聖女の土下座という、前代未聞の出会いによって、リリとフローラの友情は、衝撃的なスタートを切ったのでした。
フローラは、教皇の手紙に『私は神に会いました』と書かれていた。
教皇は、手紙を見て、ますますリリに会いたくなり、司祭長に行幸の調整を命ずるのであった。
ちなみに、緊張し切ったフローラに新作のチョコレートケーキの味が全然わかりませんでした。
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