第28話 聖なるオオカミさん
リリが王立学園に通い始めてから、リルにとっての生活は、少々退屈なものになっていました。以前は、リリと一緒に森を駆け巡り、狩りを手伝ったり、時にはリリを守ったりと、大いに活躍の場がありました。しかし、今は、朝晩のリリの学園への送り迎えが、主な任務です。
「クゥーン……」
王宮の庭園で、リルは退屈そうに大きくあくびをしました。リリは学園で新しい知識を学び、新しい友達と交流し、毎日充実した日々を送っています。しかし、リルにとっては、それが少し寂しいことでもありました。
そんなある日、リルは朝のリリの送り届けた後、ふと王都の城壁の外へと足を向けました。森の匂い、風の音。それは、かつてリリと過ごした日々を思い出させるものでした。
「グルルル……」
リルは、城壁の外を探索しているうちに、森の入り口で、人間たちの悲鳴を耳にしました。
「助けてくれー! 魔物だ!」
リルが駆けつけると、そこには数人の旅人が、ゴブリンの群れに襲われている光景がありました。ゴブリンたちは、旅人から荷物を奪い、彼らを傷つけようとしています。
リルに旅人を助ける義務は、ありません。所詮彼らは人間です。
しかし、リリはきっと
『リル、助けてあげて』
こう言うでしょう。
「グルルルルッ!」
リルは、低く唸り声を上げると、ゴブリンたちへと突進していきました。白い毛並みが風になびき、青い瞳が鋭く輝きます。
リルは、ゴブリンたちを次々と薙ぎ倒していきました。その動きは素早く、力強く、そして一切の迷いがありません。ゴブリンたちは、リルの一撃を受けるたびに、悲鳴を上げて森の奥へと逃げ去っていきました。
「お、おい! 助かったのか……?」
「あの白い狼が、魔物を追い払ってくれたぞ!」
旅人たちは、恐怖と驚きが入り混じった表情で、リルを見つめていました。
(あれは、リリさんのおおかみでは?たしかリルとか言ったような)
リルは、旅人たちの無事を確認すると、何も言わずに森の奥へと消えていきました。彼らが驚くほど速く、そして静かに。
それから、王都の城壁の周辺には、旅人を守る、白い大きな狼を見かけるようになりました。そして、「白い聖なる狼が、魔物から人々を守っている」という噂が広まり始めました。リルは、リリの知らないところで、人々の守護者として、新たな伝説を紡ぎ始めていたのです。
そして、リルは、そんな活動を、退屈しのぎに続けていきました。時には、道に迷った旅人を王都まで案内したり、魔物に襲われている森の動物たちを助けたりと、その活躍は多岐にわたりました。
そして、そんな狼を従えているりりの評判も、リリとは関係なく上がっていくのです。
「あれ?リル、今日はなにか満足げだね」
「う〜、がう!」
「そっか、そっか、いいことしたね」
「わう!」
きょうもリリに撫でられて、満足なリルであった。
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