第6話 星の元の大きな影
報告会は隊長室で行われた。
神谷隊長はいつものように筋トレの後で汗を拭きながら座り、副隊長の柊も資料を手に並ぶ。ヒナはいつものように腕を組み、少し挑発的な笑みを浮かべている。
「今回の任務、まずは無事に完了したな。今回の夢喰いはどうだ?」
神谷隊長の声は穏やかだが、戦況を正確に把握する鋭さを秘めていた。
「はい。澪さんの浄化も問題なく、夢喰いは小型の状態で無事に浄化されました」
ヒナは胸を張って言う。
「ちょっと拍子抜けしたけど、でもやっぱり水守の力は侮れないね」
澪は小さく頭を下げる。自分の実力をまだ信じきれずにいるが、先輩に認めてもらえたことはわずかな自信になった。
柊副隊長がメモを取りながら言った。
「良かったわね、二人とも。ヒナは相変わらずの戦闘力だけど、澪さんの浄化も安定していたわ」
神谷隊長は二人を見回しながら、少し微笑む。
「早期発見は夢喰いでも大切だからな。いつ出動してもいいように準備は怠らないようにな」
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報告会が終わり、他の隊員が解散していった後、篠原が澪を呼び止める。
「水守さん、少し話をしようかの」
「はい、篠原さん」
篠原は部屋の隅に座り、柔らかく手元の書物を開く。
「今回の任務で見たお前の力じゃが……わしには不思議に思えるところがある。
普通の浄化の呪文のはずなのにあの強さ。いくら水守といえど少し強すぎるよな気がするんじゃ。」
澪は緊張で手を握りしめた。
「どういうことですか?」
篠原はしばらく沈黙した後、静かに言った。
「五家の伝承に、水守家の封印の巫女としての力があると記されておる。しかし……詳しい内容はわしにもわからん。書物は各家に散らばっておるし、簡単には確認できん」
澪は息をのむ。
「……じゃあ、今回の浄化の呪文も、その封印の力なのかもしれない、ということですか?」
「可能性はある。だが、まだ確証はない。お前の力はまだ芽生えたばかりじゃ。だが覚えておけ、使い方次第で夢守としての役割が大きく変わるかもしれん」
澪は静かにうなずいた。胸の奥で、少し不安と期待が入り混じる。
(まだ分からない……でも、少しずつ理解していくしかないんだ)
篠原は笑みを浮かべ、そっと手を置く。
「焦らず、だ。お前には時間がある」
澪は少しだけ肩の力を抜き、夜の静かな寮を後にした。
任務を終えた夜。部隊の会議室は、昼間の賑わいが嘘のように静まり返っていた。
神谷隊長と柊副隊長は机を挟んで書類を片付け、時折ペンの走る音だけが響く。
そこへ、道場で整理をしていた篠原が静かに入ってきた。
「おや、二人ともまだ残っておるのか。任務後の雑務かのう?」
「ええ、篠原さん。澪のことを少し考えていまして」
神谷は書類から目を上げ、じいさんに向き直る。
「今日の動き、悪くはなかった。だがまだ自分の力を完全に理解していない。瞬間的に見せた力は、かなり特別なものだ」
篠原は軽く首をかしげ、ゆっくりと答える。
「そうじゃな。わしも見た。澪の動きには、ただの修行不足では片付けられぬ部分がある」
玲は資料を片手に、少し慎重な口調で言った。
「五家の封印の血――水守の巫女の力が、澪に受け継がれている可能性があります。けれど、本人はまだ自覚していない」
「ふむ……確かに、書物にある伝説の通りなら、五家の巫女の血は特別じゃ。だが、確認できる文献は各家に分散しておる。簡単には調べられん」
篠原は、古い巻物を思い浮かべるように目を細めた。
神谷は窓の外に目をやり、街の夜景をぼんやりと見つめる。
「つまり、彼女自身も、自分が何者でどれだけの力を持っているのか、まだわかっていない。だからこそ慎重に見守る必要がある」
柊は小さく笑んだ。
「……そうね。でも、彼女は必ず成長するわ。時間はかかるかもしれないけれど、ヒナと共に行動すれば自分の力に気づくはず」
篠原は静かに頷く。
「うむ、見守るしかないのう。だが、もしその力が開花すれば、部隊にとっても、いや協会にとっても重要な戦力になるじゃろう」
三人の間に静寂が戻る。
外の冬の夜風が窓をかすめ、街の灯が揺れる。
見えないところで、澪の力と未来を、三人はそっと見守っていた。
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