第4話 喧嘩よりも心配

二人が学校へ行った後。大人組は事務作業に追われていた。


浅見は調べものがあると外へ出ていき、篠原は道場で術本の整理をしに行った。


書類をめくる音と、万年筆が紙の上を走る音だけが静かに響いていた。


神谷隊長と柊副隊長は、それぞれの席で黙々と事務作業をこなしていた。


「……やっぱり、気になるのよね」


ふと顔を上げた柊が、手元の資料から視線を外してつぶやいた。


「火乃宮と水守、か?」


神谷は手を止めずに答える。その声はいつも通り落ち着いていたが、どこか奥に思案の色を含んでいた。


「性格も立場も正反対。でも、どこか似ている気がするの。無意識に、自分で距離を作ってるところとか……」


「だからこそ、ぶつかるんだろうな。ぶつかって、削り合って、それで――うまく噛み合えばいいんだが」


柊は小さく笑った。


「まるで恋愛みたいな言い回しね」


「そうか? 俺には友情にも見えるがな」


神谷は何気ないふうを装いながら、ちらと窓の外を見た。


東京といえど冬は寒い。外は冷たい風が吹いていた。


まるで今の二人の関係性を表しているかのように。


「ま、若いんだ。時間はある。どこかで分かり合えるさ」


「……そうね。そう信じたいわ」


再び静寂が戻り、ペンが走る音が部屋を満たす。


ただその裏で、二人の指揮官の間に流れるのは、


部下たちへのさりげない期待と、ほんの少しの――親心だった。





東京第七部隊・任務招集室。


部屋の壁に映し出された映像には、黒い霧のようにうごめく影が映し出されていた。


「これが夢喰いだ。人の心に潜り込み、ネガティブな夢を食らうことで力を蓄える妖怪である。放置すれば、夢主の精神は蝕まれ、現実にも悪影響が及ぶ。ゆえに我々が退治し、夢の浄化を行う。」


神谷の声が静かに響く。


「今回の任務は、その夢喰いが現れた地点への出動、夢喰いの討伐だ。……そして、今回は火乃宮ヒナ、水守澪のペアで現地へ向かうことになる。」


「……えっ」


部屋の隅で小さく息をのむ澪。


ヒナは口元にわずかに笑みを浮かべ、背筋を伸ばした。


「なんでいきなりあたしと澪なわけ!?……ま、火乃宮の忌み子と呼ばれようと、私に任せておけば大丈夫だけどさぁ!」


その言葉に、神谷は軽くうなずいた。


「なお、今回は篠原が後方支援につくが、基本的に二人で任務を遂行せよ。甘えるなよ。」


篠原じいは杖をつきながら、にこりと笑い「よい修行になるじゃろう」と呟いた。




澪は深く息を吸い込み、拳を握った。


(これが、私たちの本当の最初の戦い……)




「ヒナは何度か出動してるけど基本的になっちゃんと一緒だったから今回が後輩と一緒に行くのは初めてになるのよね。」


出動準備を終えて、夢喰いが住む場所、夢世界に行くために移動地点まで行く廊下で柊副隊長に声をかけられた澪。


「私が訓練なしで出動して大丈夫でしょうか…」


ヒナと行くことにも不安があるが、それ以上に夢喰いを倒しに行き、倒す事ができるのかが不安で仕方がなかった。

そんな澪をみて玲はふわりと笑った。


「隊長がいいと判断したから大丈夫よ。戦闘になればヒナちゃんは頼りになるし。後ろには篠原さんもいるわ。澪ちゃんらしく戦ってきてね。」


移動地点まで行くとそこには神谷隊長がいた。


不安そうな澪の顔を見て、穏やかな声で言った。


「心配するな、澪。今朝の槍捌きを見て大丈夫だ。と俺が思ったんだ。自信をもっていい。ヒナもだたの戦闘好きではない。君の力を引き出してくれるはずだ。」


澪はその言葉に少しだけ肩の力が抜けた気がした。


それでも、胸の奥でまだくすぶる不安は簡単には消えなかった。


(でも、やるしかない。夢喰いを倒して、仲間として認められたい――)




「夢喰い倒しに行く準備、できた?」


移動地点に着くとそこにはミニスカートの協会制服に着替えたヒナがいた。


両腰には刀が差し、まるで出陣前の武者のような佇まいだ。


「…不安しかない。私にできるのか不安。倒すことができるのかも不安で…」


澪の槍を握る手は小刻みに震えていた。緊張と不安が言葉ににじむ。


ヒナはそんな彼女を見てから、ニヤリと笑った。


「そんなんじゃ、着いたとたんに殺されちゃうよ?…今日、やめとく?」


「……行きます。自分の実力がどれくらいなのかは知りたい。…落ちこぼれなんてもう言われたくないから。」


ヒナはその言葉を聞いて安心したように笑った。


「よし、じゃあ行こうか。篠じい、なんかあったらよろしくお願いします。」


決意を込めた顔でヒナは神谷と柊を見た。


「火乃宮ヒナ。水守澪。夢喰いの討伐し、宿主の安全を確保していきます。」


神谷、柊は夢喰いがいる世界。ー鏡界(きょうかい)ー へ二人(+篠原)が消えていくのを確認し、安堵の息を漏らした。


「喧嘩しないで行ってくれてよかったわ…」


「あそこで喧嘩したら流石にげんこつを落とさないといけなくなるからな。無事に行ってくれてなによりだ。」


神谷は空を見上げてた。夜空には二人の安全を願うように流れ星が流れた。


「きちんと帰って来ることを願うばかりね。…おいしいごはん作って待ちましょうね。」


同じように空を見上げなら玲は心配になりながら二人の帰りを待つのだった。

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