マァア君、第二の人生はてんやわんや

宇宙大輔

プロローグ

…………………気がつけば六十七歳。


前期高齢者という、なんとも中途半端な肩書きを背負って、はや数年が経つ。



若い頃は、六十過ぎの人間を見れば、皆「お爺さん」だと思っていた。


しかし、いざ自分がその年になってみると、どうも実感が湧かない。

たしかに、何をやるにも億劫で、面倒くさがりになったのは事実だ。


だが、妻のミーちゃんに言わせれば、「あなたは昔からそうなのよ」とのこと。



年のせいではないらしい。



そんな私、マァアの第二の人生は、予期せぬ形で幕を開けた。

会社を譲渡し、借金も綺麗さっぱりゼロになった五十二の春。

まるでリュックサック一つで北米大陸を旅した二十六のあの頃のように、身軽になった。



     自 由 だ 。



しかし、自由すぎて、しばらくは迷子だった。

そんな迷える子羊、いや、迷える年老いた羊の私に、ある日ミーちゃんが新聞の切り抜きを見せてきた。


「あなたにピッタリのものを見つけたのよ」と。


それは、「リ・ライフ創作文賞」の募集広告だった。「家族の物語」を綴る、というテーマらしい。


「特別な物語がないと、小説が書けないことはありません。定年を迎えた夫との生活や、期待をかけて育てた子どもへの現在の気持ちなど、題材は生活の中にあります」


特別選考委員の、かの内珠貴子(仮名)さんの言葉が、私の心の固い扉を、まるで「開けゴマ!」の呪文のようにこじ開けた。



そうだ、自分が一番書きたいことを書けばいいのだ。



こうして、私の第二の人生の、新たなる挑戦が始まった。

目指すは「作文家」。小説家や文筆家ほど大層なものではない。

趣味で文章を書き、自己満足に浸る。それが「作文家」だ。



...これから始まる物語は、そんな私が綴る、第二の人生の悲喜こもごも、ハチャメチャで、時におセンチな日々の記録である。


まあ、ほとんどが「喜」と「珍」で埋め尽くされているのだが。



さあ、前置きはこの辺で。始まり、始まり〜〜。

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