風の怒りに寄り添いて、友の萌芽にひと冷やを

詩川

たのしい たのしい ともだちのつくりかた

 友達を作るのは簡単だと思っていた時期が私にもありました。

 だってみんな当然のように友達と遊びに行ったりするんですから。

 だから孤独の私は決心しました。

 友達を作ろうと。


 と、いうわけでさっそく植木鉢と種を買ってきました。

 丸くてそこそこ深い植木鉢。

 数は五つ、右から赤、青、黄色、緑、メタリックレインボー。

 色とりどりの方がおしゃれですからね。


 続いては友達の種。

 数は五種類。

 右からネモフィラ、マリーゴールド、アサガオ、パンジー、リュウゼツラン。

 友達は多い方がいいですからね。

 買うときに店員さんから「種まきの時期には気をつけてください」と言われましたが友達は平等に扱うほうがいいと思うのでみんな一緒に種をまきます。

 でも今日は疲れたので明日にします。


 夕飯に氷をひとつまみ。


 おやすみなさい。


 ◇


 種まき当日、天気は台風。

 元気に種をまいていきます。

 私はこういった作業を今までやったことが無くて、初っ端からトラブルの連続です。

 一緒に寝ていた種が布団の中で散らばっていたり。

 前日の夜に用意していた植木鉢が家から500メートルの所まで飛ばされていたりと……

 初心者あるあるのミスを連発です。

 お恥ずかしい。

 お気に入りのメタリックレインボーが見つからなかったときは泣きそうでした。

 冷凍庫の中にありました。


 朝食に氷をひとつまみ。


 気を取り直して種まきです。

 今日は風が少し強くて、塀の無いうちの庭では度々植木鉢が飛ばされるなど一苦労でした。

 賢い私は四肢を使って植木鉢を飛んで行かないように上手く抑え込んで種をまいていきます。

 赤い植木鉢にはネモフィラを。

 いちいち穴を掘ってまく、なんてことはしません。

 ごはんにふりかけをかけるが如くまいていきます。

 根性の無い数粒の種は風に飛ばされていきました。

 どうかお元気で。


 この調子でマリーゴールド、アサガオ、パンジーたちも順調にまいたのですが……

 犠牲は計り知れない。

 次々と風に飛ばされ旅立っていきます。

 ごはんを嫌うふりかけがどこにいようか。

 土を嫌う種がどこにいようか。

 次第に、植木鉢に種をまいているのか、世界に種をまいているのかがわからなくなってきました。


 さあ、最後はお楽しみのリュウゼツランinメタリックレインボー。


 リュウゼッちゃん、メタリックレインボーとかマジイカしてんね!


 植木鉢が特別製だから土も特別製がいいかと思って、猫砂ってやつを買ってきたんですよ。

 パッケージの猫ちゃんの絵がかわいくってつい衝動買いですよ。

 この衝動をリュウゼツランにぶつけてやろうと、そういう魂胆です。


 いよいよ大詰め、台風も大詰め、顔をビタビタと打つ雨粒が痛い。

 メタリックレインボーに猫砂を注ぎます。

 風に舞ったものが口に入ってきます。

 とめどなく。


 不味い。


 植木鉢ギチギチに猫砂を詰めて、真ん中に人差し指で穴を開け、リュウゼツランの種を放り込みます。

 最後に猫砂で蓋をして終了。


 ごちそうさまでした。


 後は待つだけ。

 友達が生えてくるのを。


 ◇


 風邪をひきました。

 台風の中、作業を続けたのがダメだったみたい。

 やはり友達というのは一筋縄ではいかないようです。

 悪寒が走り、頭はぼーっとします。

 こんなとき、友達がいれば看病してもらえたり励ましの言葉をもらえたりするのでしょう。

 しかし私にはいない。

 なのでネギで注連縄しめなわを作ってゆっくりと寝ます。

 手が青臭くなっちゃった。


 おやすみなさい。


 ◇


 風邪が治ったとき、それは一か月が経ったとき。

 一か月もの間私は熱に浮かされていました。

 台風に吹き飛ばされる夢や、猫砂に埋め立てられる夢を鮮明に覚えています。

 猫砂って濡れると固まるんですね、知りませんでした。


 久々にカーテンを開ける。

 うららかな陽光が私の疲れ果てた全身を癒していきます。

 背伸びをすると、そこかしこからグキグキと音が鳴ります。


 さて、本題ですよ。

 種たちは、友達たちはどうなったのでしょうか。

 一か月も経ったんです、咲き乱れているはずです。


 朝食に氷をひとつまみ。


 冷たい鈴をボリボリ奏でながらいざお庭へ。

 扉を開けるとそこには……


 見るも無残に撒き散らされた土と転がる植木鉢。

 芽生えたものなど一つもない。

 おまけに植木鉢は割れていました。

 きっと台風にやられたのでしょう。

 しゃがみ込み、息絶えた土を両手で掬い上げ、胸に抱き寄せます。


 私はなんと無力なことか。


 友一つ作ることも守ることもできない。

 私の心は眼前の植木鉢。

 込み上げてきたものが胸を越え、喉を越え、角膜を越え、外へと漏れ出ます。


 晴れた空の下、一滴の雫が土に落ちました。


 ◇


 気が付けば日は落ち、辺りは茜色に染まっていました。

 このまま夜が来れば、当然のようにまた朝は来るのです。

 そうです、いつまでもうじうじしていられません。

 ようやく私は立ち上がり、残骸の回収に取り掛かります。

 君たちの死は無駄にしない。

 志半ばに散って行った者たちの意志は脈々と次へと受け継がれていくのです。

 私は意思を拾い集めるように植木鉢の破片を集めていきます。


 すると、とあることに気付いたのです。

 メタリックレインボーは無事ではありませんか!

 傷一つ付いていない、さすがはメタリックなレインボーです。

 猫砂は……雨の影響でカチカチに固まってしまっていました。

 ノックをするとコンコン、と小気味のいい音が返ってきます。

 でも大丈夫、この下ではリュウゼッちゃんの種が今に見てろとその芽を伸ばしているはずです。


 信じましょう、彼を。


 今度は同じ過ちを犯さない。

 私はメタリックレインボーを部屋の中に招き入れ、陽の当たる場所に飾ります。


 夕飯に氷をひとつまみ。


 おやすみなさい。


 ◇


 翌朝、目覚めた私はカーテンをパっと開けます。

 メタリックレインボーの方をちらとみる。

 カチカチに固まった猫砂には割れたコンクリのようなヒビが入っています。

 そこから出てきていたのは立派な芽。


「oh……ド根性リュウゼツラン」


 私に初めてのお友達が出来ました。

 どんな逆境にも負けない屈強なお友達が。


 祝いましょう。


 朝食に氷をふたつまみ。

 そのうちひとつをそっと植木鉢へ。

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風の怒りに寄り添いて、友の萌芽にひと冷やを 詩川 @nin1732

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