第7話 佐治為景(水軍)の臣従と操船技術

1545年8月 熱田湊


​熱田湊の造船所に見学に来てくれと信長に頼まれ、佐治水軍衆からは専業漁師を生業なりわいとしている者達も、大勢熱田に訪れていた。



​「良いか、この浜の先には広大な海がある。その大海を俺は必ず織田家の領海にする。


戦は兵士だけでやるものでは無いぞ。漁師は何時も通り魚を獲り、自分の家族に食べさせ、商人達に納めるのだ。普通の生活を守る事が、この日本を守る事になる!」



海のプロ漁師達に、竜骨入り南蛮船(小型試作品)の操船技術を徹底的に叩き込む信長


「船は漕げば良いのではない。風を読み潮の流れを読み、船と一体にならねばならぬ」



​信長は自ら小型南蛮船に乗り込み、原始的な和船しか知らない漁師達に船の発進・直進・停止・そして旋回といった基本的な動きを繰り返し練習させた。


最初は不慣れだった漁師達も信長の指導の下、見違えるように操船技術を上達させていく。


​信長の言葉は、漁師たちの誇りをくすぐり、彼らを新たな境地へと導いていった。



◆□◆


佐治為景の​口から【臣従】という言葉が出た瞬間、信長の心臓は高鳴った。しかし顔には一切動揺を見せず、冷静に言葉を返す。


「佐治殿、我が織田家にお味方くださるとは、これほど心強いことはございません。しかし臣従と申されても、今まで通り佐治家は知多半島の海を治める者として、独立性を保っていただきたい」



​為景は目を丸くした。通常の主従関係であれば家臣として領地はまだしも、軍の編成は織田家の傘下に入るのが当然だからだ。



​「独立性ですか……遠隔地を託される軍勢ならまだしも、尾張の知多半島の佐治家が……他の家臣団に示しが付かぬのでは?」


​「佐治殿は今まで通り、知多半島の海賊衆を率いて頂きたい。但し二つ程お願いしたい儀が御座います。

一つは今後、織田水軍を名乗ってもらいます」


「織田信長様に臣従するのですから、それは当然かと」


「ありがとう御座います。もう一つですが、ここで建造中のスループ船の1隻を、佐治水軍の旗艦としてお使い頂きたいのです。」



「なっ!!!」


「「「はっ???」」」



​信長の言葉は為景の誇りを傷つけるどころか、むしろ高揚させた。


自分の水軍の旗艦に、先日行われたテスト航行で恐るべき速さを見せ付けられた、高速南蛮帆船を提供すると言われているのだ!


それは今後も佐治家を、尾張の海の支配者として織田家が認めたと言うこと。



「……あ、ありがたきお言葉。我が佐治一族郎党、命をかけて織田信長様にお仕えいたしまする」



​為景は深く頭を下げ土下座をした。信長は為景に近づき、その肩にそっと手を置く。



​「佐治殿。我らはもはや主君と家臣ではない。日本という大海を共に航海する運命共同体でございます。」


その夜、大野城では盛大な宴が催された。信長は佐治一族郎党に、これからの海での戦い方や、南蛮との交易によってもたらされる富について熱く語る。


その話は為景だけでなく、居並ぶ家臣たちの心も鷲掴みにした。



そして極めつけの一撃が信長の口から出た。



「明智光秀!佐治家への物は用意できたか?」


「はっ!殿の御指図どおり、先日竣工した南蛮ガレオン輸送専用船に、積み込み完了しております。船員も待機しておりますれば、今すぐにでも出立可能です!」


「光秀!ご苦労である。積み荷の目録を今すぐ、佐治殿へお渡しするように!」


「はっ!ただ今!」




「こっ!これは!!!」


その目録を見た瞬間

尾張国の海の覇者・佐治為景は言葉を失い、卒倒する寸前であったと、、、佐治家徒然日誌にはしたためられている。


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