第3話 新キャラ作成

【mikasa_JP が 晴栖山アテナ を 殺害しました】

【mikasa_JP が 晴栖山アテナ を 殺害しました】

【マジちゃん が 晴栖山アテナ を 殺害しました】

【タクロー が 晴栖山アテナ を 殺害しました】

【mikasa_JP が 晴栖山アテナ を 殺害しました】


 晴栖山ぱらすやまアテナの配信画面には、どす黒い赤文字で記された、死のメッセージログが並んでいた。数えるのも嫌なほどに連なっている。

 庭園を満たす鮮血は、彼女の流したものなのだ。


 カントリーハウスを襲撃するならず者は、先程ジャガー麺と戦って、チーターとして通報した三人組だった。


 死んだ彼女は、戦いの場から逃れて街の神殿で復活することはできるはず。

 だが、そうしたら留守になった自宅を襲撃者たちは破壊し尽くす。故に彼女は、この自宅へ自主的に復活リスポーンし、装備も頭数も実力も劣る中で、絶望的な抵抗を試みて……復活即殺害、いわゆる『リスキル』を受けているのだ。


 倒されたアテナの死体が血溜まりを残して消え、死亡時に持っていたアイテムを収めた遺留品箱デスボックスに変化する。家の中で彼女が復活したのだろう。


「オラ! 早く出てこい! 焼くぞ!」

「やめて!」


 庭園の花畑に火が放たれて、そこに、アテナが飛び出してくる。

 そして、アテナはオレンジ色の薬液を詰めたフラスコをぶん投げた。


 ――【爆発ポーション】? ダメだ、確かにそれは強いが、単発で投げてもPvPerには通じねえ!


 アテナが投げたのは魔法薬ポーションの一種だが、飲み薬ではなく、爆発を起こす手投げ弾だ。

 威力は高いが、コルク栓を抜く予備動作と、周囲に鳴り響く導火線の如き反応音で、上級者は察して避ける。中級者でも見てから避けられる。

 アテナは蔓を編んだ籠から、薬瓶を次々取り出してばら撒くが、侵入者たちは爆発をひらひらと回避して、肉薄。


「ヒャハハハハ! 受けよ、正義の刃!」


 黒衣の曲者がアテナを蹴り倒し、馬乗りになって短剣を突き立てた。


【マジちゃん が 晴栖山アテナ を 殺害しました】


 血を吐いて死んだ彼女は、即座に遺留品箱デスボックスに化ける。

 そして今度は、明らかに調理用でしかない包丁を手に、二階の窓を割って飛び出してきた。


「うぜえ!」


 だが、漆黒の重騎士の持つ大斧が、飛びかかる少女を対空迎撃。

 空中で真っ二つにして血の雨を降らせる!


【mikasa_JP が 晴栖山アテナ を 殺害しました】


「ハハハ! 見ろよ、キッチンの包丁まで持ち出しやがった!」

「そんなもんでガチ装備にダメージが通るかよバァーカ!」


 当たったところで碌なダメージにならなかっただろうが、それすら届かず。

 アテナは一矢すら報いられなかった。


 見ていてヒューマは、腹一杯食ったばかりの炒飯を吐きそうになった。醜悪で、悲惨な光景だった。


 だが配信のチャット欄は、アテナが死ぬ度に大盛り上がりだった。


『早よ死ね』

『ジャガー麺の【禁止ワード】女め』

『【禁止ワード】しようぜ』

『正 義 執 行』

『イエーイ、アテナちゃん見てるー?』

『今がこいつの過去最高同接じゃねえの?ww』

『この【禁止ワード】が!』


 どう見ても、晴栖山アテナのファンではないコメントが、大量に書き込まれていた。ヒューマはただただ、愕然とする。


 ――考えが足りなかった。俺が運営と通報厨どもを告発したら……俺を信じて味方に付いた奴まで攻撃されるのは、当然じゃねえか!


 そして、もう一つ考えが足りなかったのは、ヒューマが思っていたよりも遥かに味方が少なく、敵が多かったということか。


【mikasa_JP が 晴栖山アテナ を 殺害しました】


「やめろ」


【タクロー が 晴栖山アテナ を 殺害しました】


「やめろよ。やるんなら俺に掛かってこい。そいつは……関係ないだろ……!」


【マジちゃん が 晴栖山アテナ を 殺害しました】


 一方的な嬲り殺しが延々続き、趣向を凝らした家が破壊されていく。

 まともな感性を持つ者なら、この光景を見て心を痛め、襲撃者を憎むだろうとヒューマは思う。だが、チャットは盛り上がる一方だった。


『ほら早くチート使えよ。お前もチーターだろ?』

『みんなもっと通報しろ! GMが見に来るぞ!』

『ジャガー麺一人で終わりにするな!』

『皆殺しだ!』

『天誅アゲイン!』


 並んだコメントを見て、はっと、ヒューマは息を呑んだ。


 ――こいつら……!? 俺を狙ってきた奴らか!? 全員で俺を通報してたのか! そりゃ、AI・GMだって全プレイヤーを常時監視するほどの計算リソースは無いんだから、通報が集中した奴から順番に見てくよな。そのために通報祭りをしてたのか、こいつら!


 ジャガー麺を包囲したPvPerの集団……あれは、単に袋叩きにする目的で頭数を集めたわけではなかったのだろう。彼らは仲間を率いて、通報祭を催していたのだ。そのための、周到に計画された襲撃だった。

 そして今、アンコールだか後夜祭だか知らないが、調子に乗って無関係の者まで襲っている……


「クソ!」


 ヒューマは弾かれたように定食屋を飛び出し、鍵が壊れたままの非常階段を駆け上って自室に駆け込んだ。

 そして、パソコンにかぶりついた。


 ――VPNで発信元偽装すれば、アカBANされてても新アカは作れる……!


 ちょうど先程、誤BANの事例を探していて知った話だ。

 チーター扱いされて誤BANされた海外プレイヤーが、VPN経由で新アカを作ってアルターに復帰したという。

 もちろん、旧アカウントで作り上げたものは全て失うことになるわけだが、アルターを再度プレイすることだけはできる。


 発信元を偽装するのは一応、規約違反だが、運営会社もプレイヤーの発信元など詳細に調べることは、基本的に不可能である。だいたい、それを言うならまず悪いのは、冤罪を被せてきた運営側であるわけで。


 可能な限りの速度でアカウント作成の手続きを済ませ、ヒューマはVRカプセルに飛び込んだ。


 深く眠りの中に沈んでいくような、VRダイブの感覚。意識の落ちていく先に、1680万色の光が見え始めた。


 ゲームのオープニングムービーをスキップし、諸々の御託をスキップし、ヒューマは天上に浮かぶ神殿の如き、キャラクリエイト・ステージに降臨した。


 どこからともかくナレーションが響く。


『あなたは、この世界でどのように生まれたいですか?』

「あの配信者が襲われてた場所はグランエムル平原脇の森林地帯だ! エムル人の盗賊ローグを作れば、すぐ近くが開始地点になるはず!」


 ヒューマはそれだけの理由で初期設定の種族と職業を決めた。


 大抵のプレイヤーは、特定の武器やクラス、戦闘スタイルを使い続けて習熟する。

 しかしヒューマは、可能な限り多くの武器に手を出して、髪型より頻繁にクラスを変えてきた。このゲームの戦いの全てを知り、極めるためだった。

 どのクラスで何の武器を持とうと、戦える。


『あなたの外見を教えてください』

「キャラクリだと!? そうだ、それがあった!」


 天の声による次なる質問に、ヒューマは答えに詰まった。


 このゲームのキャラクリエイトは『沼』だ。

 老若男女に、美醜も異種族も自由自在。一昔前の洋ゲーでは御法度だった、子どもに近い外見のキャラも作れる。

 人によってはキャラクリだけで二日掛けることもあるという。が、今はそんなことをしている場合ではない。


「……えーと、元の俺から遠い外見……」


 自分がジャガー麺であるとバレるのは、よろしくない。ではどうするか。


 目の前に浮かぶ身体パラメータのウィンドウを見て、ヒューマは即断。

 悩んでいる場合ではない。


「とりあえずスタイルBおんなにしろ! 後はランダムで!」


 そう言い放つと、突然ヒューマの目線の高さがガクンと下がり、黄金で縁取り飾りがされた鏡の中に新しいキャラの姿が映った。


 橙色に近い茶髪ロングの少女だ。

 電脳世界だからこそ存在しうる繊細な造形美の顔立ちに、抜けるように白い肌、星を散らした紅玉の双眸が、儚く幻想的な雰囲気を醸す。

 手足の先まで一本の曲線で描かれたかのようにしなやかな体つきで、年齢からすると少し背が高く、『在る』場所には『在る』体型。

 初期衣装は、防具としては役に立たない無数の服の中から自由に選べるシステムだが、ランダムに選ばれたのはドイツの民族衣装みたいなデザインのワンピースドレスだった。


 鏡を見せられて、これがお前だと言われると、正直、ヒューマは躊躇った。だがこの外見に文句を言っている時間すら惜しい状況だ。


『最後に、あなたの名前を教えてください』

「名前……」


 呟く声すら、鈴を転がすような甲高いものに変じていた。

 違和感しか無いがそれどころではない。


 『ジャガー麺』という名前で戻るわけにもいくまい。と言うか名前被りはNGで、アカウント停止されたキャラの名前であっても同名のキャラは作れないはず。

 ヒューマは少しだけ考えて、頭に閃いた名前を口にした。


「【シュレディ】だ」

『シュレディさん。アルターの世界へようこそ』


 半座ヒューマこと、ジャガー麺。ジャガー麺改め、シュレディ。


 荘厳な音楽と、終末のトランペットの如きファンファーレが鳴り響き、キャラクリエイト・ステージの扉が開いた。

 そこから、何も見えなくなるほどの輝かしい光が溢れてきた。


 シュレディは走り出し、光の中へ飛び込んだ。

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