今のはチートではない、人力操作だ! ~上手すぎてVRMMOをBANされた『人力チーター』、無罪と最強を証明する復讐のニューゲーム~

パッセリ / 霧崎 雀

第一部

第1話 いつものバトル

 全感覚電脳投影フルダイブ型VR技術の確立から、およそ20年。

 今や人々は家庭用のVRカプセルに身を投じることで、容易く電子の世界に飛び込むことができた。


 VRMMOアクションゲームの定番タイトル『アルター』は、ファンタジー世界の住人となって冒険するゲーム。

 その日本サーバーで最強のPvPer(※対人戦プレイヤー)は誰か?

 という話になると、確実に名前の挙がる一人が【ジャガー麺】というふざけた名前のプレイヤーだった。


 誰ともつるまず孤高を貫き、危険度が高いフィールドや、クラン戦争ウォーが発生している地域を神出鬼没に徘徊する戦闘狂。

 その謎めいた振る舞いと強さから、“歩く災害”や“フィールドボス”という、ありがちなあだ名まで付いた。

 しかし。

 最強議論でジャガー麺の名前が出ると、決まり文句のように反論が入る。


「ジャガー麺はチーターだろ?」


 ……と。


 * * *


 コルジアナ火山登山道・一合目。

 火山灰が天地を覆い、昼も日の光が届かぬ、不気味で荘厳な火山のフィールド。


 その日、ジャガー麺は火山上層で対人戦の相手を探そうと思ってやってきたのだが、登山道に足を踏み入れるところで呼び止められた。


「あの、ジャガー麺さんですよね!? 俺、ファンなんです!」


 ジャガー麺に声を掛けたのは、まともな防具すら身に着けていない、一般人NPCみたいな格好のプレイヤーだった。いかにもゲームを始めたての初心者だ。


 いきなりファンを名乗られて、ジャガー麺は驚く。


「ファン? 俺なんかの?」

「はい! その……良かったら、あちらでお話伺えますか? 対人戦のやり方とか、教えてほしくて……」

「OK。俺で良ければレクチャーしよう」


 新規に優しく。

 ……それは全ての、きゲーマーの合い言葉だ。

 ジャガー麺はいつも単独ソロでアルターをプレイしているが、偶然出会った初心者が困っていたりしたら、積極的に助けていた。


 そして彼の後について、登山道入り口前の休憩小屋まで来てみたところ……


 中から物騒な雰囲気の男たちが、のっそりと姿を現した。

 クラスは魔術師ウィザード重装騎士グレートナイト暗殺者アサシン

 全身をSランク装備で固めた、見るからにPvPerの三人組だった。


「つ、連れてきました」


 脅えた様子の初心者くんが言うと、三人組はニヤリと笑う。


「ご苦労」

「これでいいんですよね? 俺の装備、返してくださ」

「用済みだ。……【招雷ライトニング】」


 魔術師ウィザードが杖を振ると天から雷が降り、防具すら着ていない初心者を貫き、黒焦げにした。


【 タクロー が ジャックソン を殺害しました】


 無慈悲なシステムログが、戦いとも言えない戦いの結果を宣言した。


 反吐が出る光景だった。ジャガー麺もPvPerだが、無抵抗の初心者を騙し討ちにしていじめ殺したりはしない。


「……外道が。俺に何の用だ?」

「用事は一つだけだ。死ね」


 先程のシステムログによると、【タクロー】という名前らしい魔術師ウィザードは吐き捨てて、親指を地面に向けた。


 直後。

 ぞろぞろと、周囲の岩陰や焦げた資材の陰に隠れていたプレイヤーたちが姿を現した。手にした武器はそれぞれだ。剣、弓、杖、斧、ナイフ、ハンマー、刀、槍、以下略。三人組かと思いきや、ざっと二十人は居る。


「おいおいおい、大げさだな。俺一人狙うのに何人居るんだ」


 ジャガー麺は、背負っていた白銀の大剣を抜いて構え、包囲陣の様子を窺った。


――俺に負けた連中のお礼参りってとこか? これだけ居たら逃げ延びるのは無理か。やられるまでに3,4人殺して、殺害点数キルスコアで勝ってやる!


 * * *


 ……数分後。

 散乱する死体の中に、ジャガー麺は立っていた。

 白銀の大剣を振るって、血脂を払い飛ばす。


「いやー、流石に死んだと思ったのに、なんとかなっちまうもんだな」

「嘘だろ……」


 愕然と、タクローは呟いた。

 包囲のために集められた要員は薙ぎ払われ、もはや生き残っているのはタクローを含む三人だけだ。


「お前、どんなズルをした!?」

「目の前で見てりゃ、なんで俺が勝ったか分かるだろ。連携訓練をしていない集団は味方に攻撃が当たっちまうのを恐れて攻撃しにくくなる。一方の俺は手当たり次第に斬るだけだ」

「それだけで勝てるなら苦労しねえんだよ!」


 ジャガー麺は自分がやったことを説明しただけだが、タクローは納得していない様子だった。


「まあ、なんでもいい。好きなように思ってろ。……後はお前らだけだ」

「く、くそ!」


 残る三人……魔術師ウィザードのタクローに加え、重装騎士グレートナイト・【mikasa_JP】と、暗殺者アサシン・【マジちゃん】は、破れかぶれの雰囲気で襲いかかってきた。

 こいつらは他の連中より装備が良い。乱戦の中で生き延びる実力はあったわけだし、この集団のリーダー格ということだろうか。


 まず、マジちゃんが背後に回り込んで挟み撃ちの体勢を取る。

 同時に漆黒の大鎧の騎士・mikasa_JPが火山灰を蹴散らして真っ正面から突っ込んできた。


 mikasa_JPは、地獄の鬼が持つような大金棒を振り上げ、攻撃スキルを発動。金棒が夜色の炎を纏う!


「【潰炎撃パウンドフレア】!」


 金棒が恐るべき勢いで振り下ろされ、黒い炎を爆発させた。

 その、舞い飛ぶ炎が晴れたとき……


「……え? ……は?」


 ジャガー麺は、金棒の上に立っていた。


 大金棒は、確かにジャガー麺を叩き潰すところだった。

 だがジャガー麺はそれを見切って、頬を掠めるほどのギリギリで回避し、同時に金棒に飛び乗り踏みつけたのだ。


 武器を封じられ、驚きに動きが止まった相手の隙を逃すジャガー麺ではない。

 大剣を抜き放ったジャガー麺は、重装騎士グレートナイトの兜と首当ての間……防具の狭間にそれをねじ込み、首を刎ねた。


【ジャガー麺 が mikasa_JP を殺害しました】


 切断面から噴き出す血が宙に軌跡を描いて、mikasa_JPは二分割された。

 ジャガー麺は崩れ落ちる死体には目もくれず、後方支援の体勢を取るタクローの方へ突っ走る。


「スっ……【雷電障壁スパークウォール】!」


 タクローは杖の一振りで電撃の防護壁を生み出した。

 突っ込んでいたら痛手を負っていただろうが、相手の防御魔法を読んでジャガー麺は一歩踏みとどまった。


「……ふう! いくらテメエでも、この壁に突っ込んだら死ぬぜ!?」


 雷の壁の向こうで、タクローは悠々と、次の魔法を準備する。


 それを見てジャガー麺は、担いでいた大剣を、お手玉するように軽く投げ上げた。

 そして、頭上の虚空に手を突っ込んだ。

 異次元のポケット。プレイヤー固有のアイテム収納領域【インベントリ】だ。


 ジャガー麺はインベントリから何の変哲もない空の宝箱を取り出し、それを足下に転がす。そして、さっき投げ上げて落ちてきた大剣をキャッチして抱えると、宝箱を踏み台にして跳躍した。


「飛っ……!?」


 タクローが目を剥いていた。

 ジャガー麺は走り高跳びのような姿勢で跳び、電撃の壁を飛び越えたのだ。

 そして、体重を乗せた文字通りのドロップキックで、タクローを蹴倒した。


「げふっ!?」


 蹴倒すと同時、鉄塊の如き巨大剣がタクローの腹を貫いていた。

 僅かにひねり、ハラワタを掻き出すように斬り上げ、トドメを刺す。


【ジャガー麺 が タクロー を殺害しました】


 システムメッセージログが流れ、無慈悲に勝敗をジャッジした。


「隙ありぃ!」


 術者の死と共に消えていく魔法の壁。

 その残滓を突き破って、黒衣の曲者が飛び出してきた。ジャガー麺の攻撃の隙を突き、派手に輝く魔法のエフェクトに隠れての奇襲である。


 物理的に姿を隠しても、考えは見え見えだった。

 ジャガー麺は、背後に迫るマジちゃんに、槍のような後ろ蹴りをぶち込んだ。


「がっ……!」

「俺に何があったって?」


 スキルでもなんでもない、ただのキックが暗殺者アサシンの顔面にめり込んだ。


 予想外の一撃で仰け反り、もんどり打って倒れた相手に、ジャガー麺は容赦なく大剣を振り下ろした。


【ジャガー麺 が マジちゃん を殺害しました】


 黒衣の曲者は人間スイカ割り状態になって、そして静かになった。


GFグッドファイト


 己の戦いを誇り、相手の健闘を讃える定型句を、ジャガー麺は口にする。


 同じ挨拶は、返ってこなかった。


『通報したぞ、チーター』

「は?」


 今さっき倒した者たちが、死体の上に幽霊状態で立って、ジャガー麺を睨み付けていた。アルターのシステムでは、倒された者は幽霊化し、一定時間が経過するか望んだタイミングで、復活リスポン地点に転送されて蘇生されるのだ。


『死ね、チーター』

『お前エゴサしてみろよ。サジェストに『ジャガー麺 チーター』って出るぞ』

『あんな動き、どう考えてもモーションbotじゃねえか。加速もやってるよなあ?』


 チーター(※cheater)とは何か。

 当然この場合、ネコ科の肉食動物(※cheetah)ではない。チート行為をする、悪しきプレイヤーのこと。

 幽霊どもは、『ジャガー麺が自分たちに勝ったのは、チートを使ったからだ』と主張しているわけだ。


 ジャガー麺は溜息一つで受け流した。


「くっっっっっだらねえ! そっちからケンカ売っといて、負けたら負け惜しみでチーター扱いかよ! これに懲りたら二度と、初心者を利用して他人を嵌めたり……」


 その時、突然だった。


 ジャガー麺の足下から青白く不気味に燃える光の鎖が飛び出し、ジャガー麺の全身を縛り上げた。


「……なんだこりゃ!?」


 拘束系の魔法かと一瞬思ったが、幽霊化した襲撃者どもには何もできないはず。

 不気味な光の鎖は地面から生えている……いや、違う。ジャガー麺の足下に、ブラックホールの如く禍々しく黒い穴が開いて、鎖はそこから飛び出していた。


『おい、あれ……』

『『お仕置き部屋ゲート』か!?』

『やっべえ、始めて見た!』


 幽霊どもが興奮気味に言うのを聞いて、ジャガー麺もピンと来た。

 チーターなどの規約違反者をゲームのバックヤードに転送するための演出だ。


『よっしゃあ!』

『よくやった、運営!』

『じゃあな、チーター!』

「待て! 何かの間違いだ! 離せ!」


 チンパンジーみたいに手を叩いて大喜びする幽霊たちに見送られ、全身を光の鎖に巻き取られたまま、ジャガー麺は闇の中へ沈んでいった。

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