第12話 首座屋敷 再び
「首座様、失礼いたします。あの、老師様のお孫様とおっしゃる方が、いらしているのですが・・・」
「どんな方だね?」
「三十歳くらいの長い赤い髪の方です」
「ああ、お通ししてくれ」
秘書官は、私の返事に一礼して去っていくとすぐに客人を連れて戻った。いつもここにいらっしゃる時には老師様の姿なのに・・・。
よほど腹が立つことがあったのか、不機嫌な顔をしている。
「後は、私がお相手するから、下がっていいよ」
「はい、失礼いたします」
いつもの席にドカッと腰を下ろしたので、グラスに酒を注いでお出ししても、手をつけず、腕組みをして、何か考えている・・・。
「そのお姿でいらっしゃるとは、何かございましたか?」
「おい、俺が預けている金があるよな。これだけくれ!」
老師様は、右手を思い切り開いて、前に突き出された。
「あの・・・、それは五ブランではないですよね。いかほどでしようか?」
「分からん。<セルドの店>の女将を買うことになったんだが、姉さん達にこれだけ持ってこいと言われた。持ってきた金額で、手放すかどうか決めるそうだ」
なるほど・・・、なぜ女将を身受けする事になったのかは、後でお聞きするとして、あの店の女達らしい男の価値の見極め方だ。そうですか、非常に腹立たしい習慣ですが、娼館から女性を身受けしようとすると、港町下町の相場は確かあのくらいだったか・・・。私は立ち上がり、机の引き出しから書類を取り出し、金額を記入して、署名した。
「これを明日、取引所へお持ちになって下さい」
「お、お前、これは・・・」
「あの方には、このくらいの価値がございます。男だったら、役人の試験を受けさせて、秘書官に取り立てておりました。いや、女性でも構わないかな?老師様にお譲りせずに・・・」
「あの娘は俺の家で働くんだよ、ありがとうな」
老師様は、私の手から書類を引ったくり、マントの隠しにしまうとグラスに手を伸ばされた。
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