君逝く朝に

杉山薫

プロローグ

第一話

 オレの名は橋本辰之助。少しヤンチャな高校二年生だ。オレの通う高校は家から片道一時間くらいのところにある。


なんで、そんな遠い高校を選んだかって?

決まってんじゃん。

ヤンチャしているって、近所の高校じゃ敵ばっかでケンカばかりの高校生活になっちゃうだろ。

やっぱりさ、高校生活って恋愛とかしたいだろ。

ヤンキー女以外とな。

 

 そんなオレにも高校二年で春が来た。オレの恋人はまあ、ギャルだ。ヤンキー女とギャルじゃ、そんなに変わらねえだろって。それはヤンキー女と付き合ってから言え。彼女の名は野村貴子。高校の近くにある定食屋の次女。なんで知り合ったのかっていうと実は兄貴の嫁の幼馴染の同級生の妹なんだよ。兄貴の嫁の同級生は清楚なんだが、貴子はギャルで少しヤンチャしている。まあ、オレとはちょうど釣り合っているとオレは思っている。

 

 付き合うきっかけは文化祭の後夜祭で貴子から告白してきた。なんでもこの学校にはポプラ伝説っていうのがあって、後夜祭でポプラ並木の前で女子から告白すると恋が実るっていう眉唾物の伝説があるらしい。まあ、貴子は前からタイプだったからそのまま付き合うことにした。


 今日、担任の南先生に進路指導室に呼び出された。


「橋本君、高校生活はどう?」


「まあ、恋人もできてラブラブな高校生活ですよ」


「そう」


南先生はそう言って、机の上に二冊の日記帳を出してきた。


「これ、恋愛未来日記っていうの。知ってる?」


オレは南先生の言葉に首を横に振る。


「未来日記ってね。日記帳に記載された通りに現実が進行していく魔法のアイテムなんだよ。これは恋愛版なのよ。使ってみる」


「でも、オレは恋人がいるから関係ないんじゃないですか」


「私だって旦那がいるのに使ったわよ。もちろん旦那と一緒にね」


南先生はそう言ってオレにウィンクをしてきた。


「なるほどね。それでお腹大きくなったんすね」


南先生は今週いっぱいで産休に入ることが決まっている。


「じゃ、貴子と相談します。南先生も元気な赤ちゃん産んでくださいね」


「そうだ。二冊とも最初の数ページが切ってあるけど、私たちの愛の軌跡を教え子に見せるわけにはいかないから切り取っただけだからね」


南先生はそう言ってオレに日記帳を手渡した。


 恋愛未来日記を目の前にしている。取扱説明書の主な部分は次の通り。


十日以内の希望の未来を日記帳に日付指定で具体的に書き込む。


違法行為を書き込んだと認められた場合には、その日付の書き込みはすべて無効となる。


書き込む際、必ず最後に『。』を書き込む。その際、日記帳に叶ってほしいという強い念を送り込む。


どちらの日記帳を使用しても良いが、片方の日記帳は想い人に受け取らせること。受取前の記入はすべて無効となる。


想い人の日記帳の受取り後の廃棄等が確認された場合には、故意又は過失の有無にかかわらず、それ以降の恋愛未来日記への記入は無効となる。


ちなみに受け取り側の日記帳にはどんなことが記載されるんだろうか。受け取り側が一切記入しなかった場合にはひょっとして白紙のまま。


ってことは南先生のところは二人とも記入していたってこと?


まあ、使ってみればわかるか。


 学校の帰りに貴子のお店に寄る。貴子は学校から帰るとお店の手伝いをしている。


「おう」


オレはそう言って、いつもの席に座る。注文とかしなくてもいつも日替わり定食が出てくる。


「はい、日替わり定食ね」


貴子が日替わり定食を出してきた。


「あとで話があるんだけど時間取れる?」


「プロポーズ? 父ちゃん、そこにいるからここでいいよ!」


「そうじゃねえよ。南先生からオレたち二人にもらったものがあるから⋯⋯。ちょっとあとでツラ貸せ」


「あいよ。あんた」


本当、調子狂うな。

コイツから告白したんだよな。


 オレは今、貴子の部屋にいる。


「で、南先生から何もらったの? 何なに、婚姻届の用紙?」


コイツ、よくそんな発想ができるな。

部屋で男と二人きりなのに⋯⋯。


「これだ!」


オレはそう言って日記帳を机の上に出す。


「なにこれ? うちらに真面目に日記つけろってこと? ウケるんですけど!」


「これは恋愛未来日記というアイテムらしい」


オレの言葉に貴子はニヤける。


「へえぇ、辰之助ってそういうの信じるタイプなんだ。意外ぃ」


「別に信じているわけじゃねえけど南先生がくれたんだから一回くらい使ってもいいだろって感じなだけだよ」


貴子はオレの顔をまじまじと見てくる。


「いいよ。使ってみよ。ふううん、これが取説か⋯⋯」


貴子はしばらく取扱説明書を読んで、おもむろに日記帳を開いて書き込んだ。


おいおい、躊躇くらいしろよ。


貴子は書き込んで、日記帳をそのまま閉じた。


「何書いたんだよ?」


「明日のお楽しみぃ。今日は遅いからもう帰ったほうがいいよ」


何書いたか、すごい気になる。


オレはもう一冊の日記帳を手に取って日記帳を開く。


こっちの日記帳には転記されないんだ。

だとしたら、なんで受け取り側の日記帳が必要なんだろう。

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