私は怖い話は書かない
ひなた にこ
第1話 私は怖い話は書かない
子供の頃、怖いものが大嫌いだった。
映画、テレビ番組、小説、漫画など媒体は何であれ、とにかく怖いものが苦手で避けて生きてきた。
それらを一般的にはホラーというジャンル分けをすると思うが、幽霊や妖怪などの他にも、グロテスクな表現、戦争や事件などの人が怖いものもすべて受け付けず、思わず目にしてしまった日にはトイレにもお風呂にも一人で入ることはできなかった。
自分には見えないものがこの世の中には存在していて、科学が進む現代においてさえ、絶対にこうだという裏付けができないできことがこの世の中にはいくらでもある。その途方の無さと、説明がつかないことへの理不尽さを恐れていたところもある。
しかし今、大人になった私はというと、自ら進んでホラーに触れている。具体的には20代はじめだったと記憶している。
恐怖を感じるところは変わらなかったが、その恐怖を必要以上に考えないようにコントロールすることができた。小説などは特に好きで、映像で与えられる恐ろしさとは別に、自分の想像力をフル活動させることで、より恐怖心やスリルを感じることができた。
とはいえ、こういう怖い話を見ることができるのは、自分が実際に体験しているわけではないからだということも十分に分かっている。体験するとなれば話は別だ。
友人に一人、見えるという人がいるが、どのように見えるのかと聞いたところ普通に目で風景や人物を見るときと同じ解像度で見ることができるらしい。当たり前にいて、時には触れられ階段から転げ落ちそうになったこともあるとのことだ。
私は、その友人には申し訳ないが見える側でなかったことをとてもありがたいと感じた。
自分が飼っていたペットや大切な人に、会いたいときに会えるなどという都合の良いものではない。そして見えるからと言って、それを証明することもできない。
見えることを利用し職を得ている人もいるが、具体的な見え方、今何をしたのか、その霊たちがどうなったのか、見えない人にはどうしようもなく見えない。だから信憑性を疑われる。
一口にホラー好きと言えど、様々な好きがあると思うが、要するに非日常であったり、その霊が出る背景であったり、惹かれる要因は人の数だけ存在するわけで、各々が選べる側でいられるから、好きだと言えるのだと思う。
もちろん、私もそのうちの一人だ。問答無用で毎日のようにホラー体験をしていたら、もしかしたら好きとは言えないかもしれない。
そんな私がホラーに触れるようになった過程で、唯一決めたことがある。それは、【私が恐怖対象を産み出さない】ということだ。要するに、私が怖い話しや出来事を『創造』しない。
世の中には様々な恐怖体験や心霊現象の目撃談などが存在する。その中のすべてが実話、ということはないだろう。もちろんホラー小説や漫画、映画などがあるのだから、創造された恐怖というものも数多ある。
私はお話を書いたり創造したりすることは好きだが、怖い話は書いてしまえば本当に『産まれてきてしまう』気がして仕方がない。
だから、私は怖い話は書かない。
私は怖い話は書かない ひなた にこ @nicohinata
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