スーパーは宝の山だった


「……こいつは、またすごい建物だな」


 たどり着いたスーパーの外観を見て、アイクは目を丸くしている。


 レイカにとっては、特に驚くべき点もない、ごく平凡なスーパーでしかなかった。

 アイクによれば、こんな風に壁の一面がすべてガラス張りになっている建造物なんて、見た事がないという。

 強度的に平気なのかと、やけに心配していた。

 

 一階の出入口はシャッターで閉ざされている。

 ゾンビらの侵入を防ぐ為に下ろされたのかもしれない。

 持ち上げようとしても、鍵が掛かっているらしくてレイカにはまるで開けられなかった。


「これを開ければいい訳だな」


 アイクはそう言って、両手でシャッター下部の取っ手を掴む。


「ふんぬッ!」


 バキバキッと何かが破壊される音がして、シャッターは容易く持ち上げられた。


「……ご、ゴリラ?」

「レベル17だからな」

 

 アイクの言う事は、たまによくわからない。

 シャッターの向こう側にはガラスの自動ドアがあり、それくらいならばレイカの力でも強引に開けられた。


 店内へと、足を踏み入れる。

 一階は、主に、生鮮食品やパン、お惣菜などを扱うフロアだ。それらは、いずれもとっくに腐っているだろうからスルーした。


 停止しているエスカレーターを駆け上がって、二階へとやってくる。


 そこに陳列された品々は、ほぼ手つかずの状態で残されているようだった。

 ずっとシャッターが下りていた為、無事だったとも考えられる。が、この辺りでは、略奪などが起こる暇もないくらい、瞬く間にゾンビ化が広がってしまったのかもしれない。


 奥の方へやって来ると、棚に、透明なビニール袋に詰められた塩が積まれている。

 後をついて来ていたアイクは、それらを見て目を見張っている。


「これ、ぜんぶ、塩なのか?」

「うん。胡椒は、と……」


 レイカは斜向かいの棚に目をやる。そこには小瓶に入った胡椒がずらりと並んでいる。


「ここは、貴族の食糧庫か?」

「庶民の味方だよ」


 唖然としているアイクをよそに、レイカは他の商品も見て回る事にした。


 お菓子や缶詰、乾燥パスタ、インスタント麺、レトルト食品。豊富な商品が棚に溢れている。

 レイカの目は、ある食品に留まる。

 カレー……ううぅ、久々に食べたい!


 お湯くらい、あちらでも沸かせるよね。

 問題は、お米だ。さすがに、炊飯器なんてないだろうなあ。

 とりあえず、お米の袋を抱えて、アイクの元へ行ってみる。


 彼は塩や胡椒を、輝く枠を通じて向こう側へ運び入れている最中だった。


「ねえ、そっちの世界にお米ってある?」

「おこめ?」


 アイクは、レイカの持ってきた米の袋をまじまじと見る。


「うーん、聞いた事はあるが……我が国では作られていないと思うぞ」


 てことは、やっぱ炊くのは無理かなあ。けど、カレーがどうしても食べたいッ!

 確か鍋でも、お米が炊ける方法があるはず。

 とりあえず、これも向こうへ持っていこ。


「本当に、色々なものがあるな」


 塩と胡椒を運び終えたアイクは、店内をぐるりと見渡す。

 ある方向へ視線を向けて、動きを止めた。彼が足早に近寄っていく先にあるのは、ペットボトル飲料がずらりと並ぶ棚だった。


「これは、もしや……」


 そう言いながら、一本のペットボトル飲料を手に取るアイクに、レイカは言う。


「ね、たくさんあるでしょ」

「中に入っているこの液体は?」

「飲み物だよ」

「これが?」


 ちょっと、訝しそうな顔をするアイク。

 彼が手にしているのは、メロンソーダの入ったペットボトルだった。

 そんな色の飲み物なんて、恐らく見たことが無いのだろう。


「飲んでも平気なのか?」

「冷えてないから、おいしくないよ」


 ペットボトル飲料の並ぶ冷蔵庫は、完全に停止している。


 アイクは、レイカの忠告は聞かずにペットボトルの蓋を開けて口に持っていく。

 常温で保管されているものでも、未開封ならば飲んでも問題ないだろうけど。

 ぐびっと一口飲むと、アイクは目を見張る。


「ぬるいでしょ?」

「ああ、けど……うまい」


 満足気な顔のアイクを見て、次の台詞は予想できた。


「これは……売れるっ!」


 ……やっぱり。


「本当にここは宝の山だな」


 アイクは店内を見回しながら、しみじみとそう漏らす。


 とりあえず、この場からあちらへ戻れば、いつでもここへ戻って来られる。

 二階に、ゾンビは上がって来ないだろうから、安全なはずだ。


「他に何か、持っていきたいものはあるか?」


 アイクに問われて、レイカはちょっと考える。


「そうだ、ちょっといい?」


 エスカレーターを駆け下りて、一旦、レイカは外へ出た。

 スーパーの向かいは自転車屋で、その二つ隣は書店である。路上をうろつくゾンビは、アイクが水鉄砲で始末してくれた。


 書店のシャッターも下りていたが、アイクがバカ力で開けた。

 店内へと足を踏み入れるなり、アイクはまたも呆気にとられていた。


「こんなに大量の書物を見るのは初めてだ」


 ここは町の本屋さんにしては大きい方だけど、もっと大型の書店はいくらでもある。


 レイカは、まっすぐ料理本のコーナーへ。

 そこにはレシピ本などがずらりと並んでいる。

 鍋でお米を炊く方法が載っている本は……「お米のおいしい炊き方」なる本が目に留まる。さらに、そのものズバリ「鍋で米を炊く」というタイトルの書籍もあった。


 とりあえず、それらを手に取り、レイカとアイクは本屋を後にした。

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