第13話 決断
今日もネオンの喧騒に揉まれながら
ミナミにやってきた。
今日は仕事も全て終わらせ、はるきとの
待ち合わせをしていた。
「おまたせ」
息を切らしてやってきたはるきは
堂々と私の腰に手を回し、ネオンの喧騒の中を歩く。
はるきのこういうところが好きだった。
堂々と愛を示してくれる。
今日は2人でデートだ。
いつも歩いている道なのになぜか違う場所に感じてでも心地よかった。
私の行きつけの寿司屋に入り、それぞれ注文を終え、乾杯をする。
しばらく今日の仕事の話をし、ネタと共に酒が進む。
やがて午後23時。賑わう人々の中を抜け、
いつもの場所へ行く。
空気が変わる。お姫様抱っこでベッドまで運ばれ、押し倒される。
乱暴に服を脱ぎ捨て、ネクタイを解く。
ちょうどいい低音で
「I love you」
と、囁かれる。
こういうところが、ずるい。
やがて情熱的な情事が終わる。
2人で煙草を吸う。宙に舞う煙を見ていると、
はるきが話し出す。
「この前の件だけど…どうする?」
たかくんのところに残り、体を売り続けるか
はるきのところへ行き、足を洗って幸せになるか…。
たかくんのことを思い出す。
たかくんと行ったホテル。
たかくんと行ったご飯屋さんやバー。
酔ったまま帰ったあの家。
罵られ、殴られた日々。
「ねえ、変なこと言ってもいい?」
「なに?」
「私を…殺してくれない?」
「…え?なんて…?俺、お前のことなんて殺せないよ、無理だ…。」
戸惑い、焦るはるき。
なぜこんなことを言ったのか分からない。
でも殺されるならはるきがよかった。
逃げ方を提示してくれたはるきには
感謝している。
けれども、私は汚い。醜い。
まともになんてなれるわけない。
一生背負うことになる経験を私はしてしまっている。
「はるきは、こんな汚い女でいいの?
もっといい人とかまだ助けられる人いるんじゃないの?」
「俺はどんなにあゆみが汚くても好きだし、
あゆみを幸せにしたい。だから、逃げよう?こんな環境から。」
そのとき、私はこの人なら私のことをしっかり背負って支えてくれると確信した。
金ピース。それは私が唯一、たかくんに染まらなかった部分。
この相棒のような存在はまだ私をまともに戻れるかもしれないと思わせてくれた。
「…わかった。逃げよう。ここから。
私、はるきに人生を預ける。」
初めて私自身の意思で決断したことだった。
信じてみようと思えた。
「わかった。迎えに行くからね。
決断してくれてありがとう。俺が絶対幸せにするから。」
はるきは優しく抱きしめてくれた。
たかくんのように乱暴にではなく、いつもの
ように優しく。
きっとそれはお金より、なによりも私がずっと欲しかったものだった。
私は、初めて「本当の愛」を知った。
夜の街 ゆき @yuki_kz07
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