バ美肉おばさんは話を聞く①

私は乙女ゲームを嗜むVの中の人、いわゆるバーチャル美少女受肉おばさんだ。

そんな私に一つのニュースが入ってきた。

乙女ゲームにハマるキッカケでもあり、愛してやまないゲームでもある『きらきらプリンス』のIPを、新興の開発会社が買い取ったらしい。

コミュニティの一部でリメイクかスピンオフかと話題になった。

あのゲームは回収騒ぎもあったが、私は手元に残していた。

あの事件……事故?の原因は色んな噂が流れたけど、真相なんて誰も知らない。

もしも自分が、となっても怖いからプレイしなくなっていた。


今、私のチャンネルのメンバーでもあのゲームのことを知っている人は少なくなっているだろう、

アンケートをとってみたらプレイしたことがある人が四割、知っている人が二割程度だった。

……案外多かった。


その話が出てから一年ほどは何の音沙汰もなかった。

買い取っただけかぁ……と、忘れかけてた頃に出てきた情報はタイトルだけだった。


『フレデリカ・ヴァーミリオン ~きらきらプリンス トゥルーストーリー~』


しばらく「フレデリカって誰だ?」となった。

あの影が薄い悪役令嬢であることを思い出すのに時間がかかった。

なんでよりによってあのキャラ?悲劇的な話にしかならんだろう。

それとも愛され悪役令嬢物になるんだろうか、逆に主人公にざまぁするのかもしれない。

なんにせよ情報が全くないから、みんなで予想して楽しんでいた。


そこから数ヶ月後、ゲーム関連メディアによる開発者インタビューの記事があがった。

社長の社長による社長のためのゲームとのことだ。

なんだそりゃ?すげぇわがままを通してんな。

社長はこのゲームをプレイしていてもおかしくない年齢の女性だ。

何故フレデリカを全面に押し出してるのかは知らないけど、あの当時みたいな甘々な内容になるだろう。


さらに数ヶ月後、発売日が決まった。

商売の基本を知らない私が言うのもなんだけど、特典が付くわけでもないのに完全受注生産って、開発費を回収できるの?グッズ販売で稼ぐつもりなのかなぁ?


あらすじもなく、ティザーサイトはおろか画像すらまったく出てこない。

一応昔の大ヒットゲームだから、そのネームバリューを使っただけのクソゲーじゃないかという意見がSNS上では主流になっていた。

様子見するのが吉なんだろうけど、ファングッズとして購入するという人もいる。


予約サイトができたので見に行った。

タイトルのすぐ下の概要に『私の私による私のための作品』と書いてある。

わざわざこの文言を入れた意味がよくわからないんだけど、公式二次創作みたいな感じなのかな。

ストーリーはフレデリカ・ヴァーミリオン様を救うための物語だそうだ。

やっぱり愛され悪役令嬢物ってこと?

主人公は主人公のままだし、まさかの百合ゲー?

下にスクロールすると……

R18だと⁉︎原作はR15だった。

フルダイブ型のゲームは結構年齢制限が厳しい。特に性的な表現には厳しくR18でもキスまでだ。

でも、十分だろう。まさかこんなネタがあっただなんて。

その下にはあなたの健康を害する恐れがありますと、お約束の文面がズラズラと書いてあった。

そして初版パッケージのみの発売でDL版、再販はありませんだそうだ。


かつてのファンでありオタクの私にはそそられる。

値段もお手頃価格だ。ファングッズとして持っていても良いかもしれない。

最高に胡散臭いし、どれ程の法的根拠があるかは知らないけど、最後のノークレームノーリターンのチェックボックスをチェックして会計をすませた。


まさか、詐欺じゃないよなぁ。

値段の安さやサイトの安っぽさが後になってから気になってきた。

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