平凡JDは乙女ゲームをプレイする③
まさか二人目との出会いイベントが壊れているなんて思ってもいなかった。
男爵令嬢の私が侯爵令嬢に王子様と話したことを怒られるイベントだ。
優しい世界なので侯爵令嬢が私の前に立ちはだかった時点で助けが入る。
助けてくれるのは熱血系の正義感溢れる人だ。
この世界では端的に言ってしまえば私が正義だ。
だからイベントを進めていくと暑苦しいくらいに私を守ってくれるのだ。
「止めろ‼︎」と私の前に立って私を庇ってくれる短髪長身細マッチョのイケメン。
うっとりとしていると、女性の声が響いた。
「騎士見習いの分際で女にうつつを抜かしている場合か‼︎」
声のした方に振り向くとフレデリカが仁王立ちしていた。
彼は非常に怯えた様子だ。
え、なんでこの人フレデリカにこんなにビビってんの?
「教官殿、これは……」
教官殿⁉︎何このイベント?
「貴様、私に口答えするつもりか」
映画で見た軍隊のように、彼はビシッと背筋を伸ばした。
「いいえ‼︎」
「グラウンド十周、ダッシュ」
「ですが教官殿、あと十分で授業です‼︎」
「なら、十分で済ませてこい。質問は?」
「ありません‼︎」
「なら行け」
「はい‼︎」
そう答えると全力で走り去った。
ほんとに何これ?
侯爵令嬢たちも背筋を伸ばして立っていた。
「貴女たちもいつまでそこにいるのですか?」
先程とはうって変わって優しい声なのに、侯爵令嬢は速やかに立ち去った。
えっと……私はどうすればいいの?
私の方に振り向いたフレデリカは昨日と同じく冷たい目をしていた。
「さっさと去りなさい」
私を助けてくれたの?それともただ邪魔しただけ?
フレデリカが怖すぎてすぐにその場を去った。
今日のところは登場イベントくらいは見ておこうかな……
怖いって言っても所詮はゲームだし、全く見たことのないイベントだから後で自慢もできそうだし。
三人目、金持ちの俺様キャラ。
私を面白い女扱いしていたところに現れたフレデリカと口論を始めた。
「貴方の家の力なんて、精々蜥蜴を追い返す程度でしょう?貴方の言う精鋭とやらが百人雁首揃えても私一人に歯が立たないくせに」
一体この二人に何があったんだ?
そんな設定なんてなかったはずだ。
最終的には「成金風情が我が公爵家に縁付こうなんて烏滸がましい」と言われ、その言葉でうつむいて黙り込んでしまった。
次の日、ワンコ系ショタ。
「尻尾を振るしか能がない犬畜生は端っこにいなさい」
フレデリカに言われ、廊下の端っこで震えているこのキャラに、ヘニョった犬耳と丸まった尻尾を幻視した。
イベントが始まる前に終わってしまった。
更に次の日、無口クール系が一番酷い目に遭っていた。
何かがフレデリカの癇に障ったらしく、腕を切り落とされていた。
あのクール男が蹲ってあんな叫び声をあげたのを初めて聞いた。
その叫び声を聞いて「あら、声が出せましたのね」と見下ろしていた。
いや待って、なんで腕切り落としてんの?フレデリカが持ってるその剣は何よ?
すぐにフレデリカに腕は治してもらっていたけど……本当に何あれ?
何度でも言おう。
あんなキャラだったっけ?
あまりにも異常なイベントが続いたので精神的にすごく疲れた。
いつもならもっとプレイするんだけど今日は限界だ。
もう終わりにしよう。
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