第35話 商会旗揚げ

後日、マルコからタダで提供された屋敷を見に行った。

​「うわあ、すごい!おっきいね、マスター!」

​ユズリハが目を丸くして感嘆の声を上げる。


​屋敷はなかなかの大きさで、町の中心部からは少し離れた場所にあった。

さらに、今回被害の大きかった倉庫街寄りだ。

おそらく、マルコは買い手が付きにくい物件を僕に押し付けたのだろう。

​だが、僕にとっては十分すぎる物件だった。現実世界で片道一時間以上かけて通勤していたことに比べれば、大した距離じゃない。

何より、うちの子たち全員に一部屋ずつあてがっても余るほどの広さには純粋に感動した。

​ちなみに、不動産投資の方は自分たちの店舗兼住居として街中の小さな建物一つを購入し、残りの資金で崩れた倉庫街を買えるだけ買った。

倉庫街を選んだのは、人が戻って活気も戻れば倉庫需要も戻るはずだと考えたからだ。

もっとも、金貨5000枚では町の中心部の良い場所はろくに買えない、という現実的な理由もあったが……


​その後、僕は他の子たちも呼び寄せて屋敷の整理をし、住環境を整えた。

​生産スキルを持つリンファには、すぐにポーションの製造を試してもらったところ、この街で買えたヨモギの葉と普通の水で回復ポーション(小)ができてしまった。

これで、ポーションの在庫切れを気にする必要がなくなったのは、非常に大きい。

​「すごい!これでいくらでも作って儲けられるね!」とミリアが目を輝かせながら、はしゃいていたということもあった。


​ちなみにどうやって作っているのかを見せてもらったのだが、リンファが水にヨモギの葉を入れて振ると、一瞬光ったと思うと、ポーションができていた。

しかも、瓶に入った状態でだ……

​「え、瓶はどこから出てきたんだよ……」

​僕は思わず呆然とした。

​リンファに聞いても、「そういうものだから」と返されてしまう。もうツッコむのは諦めよう。

たぶん本当に知らないんだろうし

​店の方も、とりあえず倉庫にあったゴミ装備でも並べてお店っぽくしようと、うちの子たちに準備させていた。


​そんなこんなで数日が経った頃、エドガーの使者がやってきた。

​「ロンメル殿。領主からの指示です。ポーションを一気に買うのは財政的に厳しいため、毎月金貨1000枚分を買わせてほしいとのことです」

​「分かりました」

​一括で金貨10万枚とはいかなかったが、毎月固定の収入が得られるのはありがたい。

​「今回だけは負傷者が多いため、追加で金貨5000枚分、すなわちポーション100本を買わせていただきます」

​僕は笑顔で頷き、ポーションを渡した。

​これで、とりあえず当面の売り上げは確保できそうだ。


マルコからの紹介で無事に商人ギルドにも登録することができた。

ちなみに商会名はヴァルキュリアにした。

戦乙女たちというのが、僕としては一番うちの子たちを端的に表していると思ったからだ。


なにはともあれ、僕たちのこの街での生活が、ようやく軌道に乗り始めたのだった。

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僕と彼女たちの異世界奮闘記 烏賊墨 @ikasumi-

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