自分を変える(変えたい)

 昨日、後藤に『もっと人と接してほしい』と言われた。


 ――まあ、確かにな。そう思った僕は、試しにこれまでに関わりがあった人に自分から話しかけることにしてみた。


 「あの……こんにちは」


 「お、岡田くんじゃん。どうしたの」


 「僕、人と話すのが苦手で……。どうしたらいいのか、色々教えてもらえたりしないかなあ、って思いまして……」


 僕が相談相手として選んだのは、同じ図書委員の加藤玲かとうれい。こんな僕でも、割と緊張せずに話せる、優しい先輩だ。


 「うーん……やっぱり、趣味聞いてみたりするとか?とにかく、話の輪が広がるようにするのは大事かな」


 「あ、ありがとう……ございます」


 「全然全然!私で良ければ、全然相談にも乗るからね」


 「……分かり、ました」


 ――先輩が、良い人過ぎる件。


 こんな話をしている間に、昼休みが終わってしまった。図書室には人は誰もいなく、部屋の鍵を閉め、職員室に返却する。教室まで戻る廊下は、いつまでも殺風景だ。この景色にも、後藤がいてくれれば、もっといい景色になっていたのかも。


 ……どうでもいい時間も、後藤のことをずっと考えるようになっていた。



 先輩に相談して満足した一日が終わるのは、いつもより長く感じた。家に帰ってからテレビを見ていても、中々時間が過ぎずにいた。


 『速報です。本日午後二時頃に、中央市の病院から、患者が病室にいない、締めたはずの窓が開いていて、飛び降りを示唆する置き手紙が残っていると警察と消防に通報がありました。警察によると、病院の中庭に女性が倒れているのが発見されたとのことです。女性は、その場で死亡が確認されました』


 「中央市、かあ……この病院、近いな」


 このニュース速報が流れた時には、それくらいしか思っていなかった。


 でも、これから。本当の恐怖と罪悪感に苛まれることになるのは、この頃の僕は知らなかった――。

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