皆既月食を見よう

ふさふさしっぽ

皆既月食見ました?

 午前二時半。

 黒猫ココアは心配していた。

 明日は会社なのに、あかりがまだ起きているからだ。


「あかりちゃん、寝不足になっちゃうよ」


「昼間寝てたから大丈夫なんじゃないか」


 ココアのつぶやきに、白猫マシュマロが欠伸しながら言った。

 ココアもマシュマロもあかりのベッドの上に寝転がって、あかりを待っている。


 当のあかりはアルコールを片手に、なにやらうきうきしている。


「ココア、マシュー、月見酒よ! 今日は皆既月食なんだから」


 もう片方の手には、いい匂いのするパンを持っている。


「かいきげっしょく、って何? あかりちゃん。それに何手に持ってるの?」


 ココアはあかりのパンをふんふんしながら聞いた。マシュマロも「うまそうだな」と言いながら立ち上がる。


「ココアとマシューは月見バーガーは食べちゃだめだよ。ちゅるるあげるから」


「ちゅるる!」


「くれくれ、あかり」


 ココアはマシュマロと一緒にちゅるるに夢中になった。ふとあかりのほうを見ると、あかりはパンにかぶりつきながら、アルコールを飲んでいる。


「この芋焼酎おいしいなー。ね、ココア、マシュー、今日は皆既月食って言って、月が赤く見えるんだよ。ほら、窓から見てごらん」


 あかりにそう言われ、ココアは窓から外を見上げた。赤い月がそこにあった。


「マシュマロ、月が赤いよ」


「はあ? だからなんだよ。俺は寝る。ちゅるるも食べたし」


 マシュマロはベッドの上で丸くなった。まだまだ蒸し暑い日が続くようだったが、あかりが部屋のエアコンを常時つけていてくれるので、快適なのだ。


(まあ確かに月が赤いからって僕にはよく分からないけど、あかりちゃんが嬉しそうだからいいか)


 ココアはベッドに座るあかりにぴとっと寄り掛かった。


「あら、ココアはお月見の醍醐味が分かるのねー!」


(いや、正直よく分からないけど。あかりちゃん、会社は大丈夫?)


「明日……っていうか、今日? 有給取ったし、今日はココアと皆既月食見だーー」


 あかりはそのうち寝落ちし、ココアはタオルケットを口にくわえてえっほえっほと運び、あかりにかけてあげた。


 月はもとの月に戻っていた。


「おやすみ、あかりちゃん」


 ココアはマシュマロの隣で丸くなった。


 ぷすー。


「くさっ。マシュマロ、おならしたな!」






 猫は視力があまりよくなく、赤が見えないみたいなんですけど、猫になってみないと分からないので、そこはスルーでお願いします。








 

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