風邪薬を水なしで飲んでみた

@sankakusame

カロナールとカルボシステイン

 風邪二日目。

 なかなか眠れなくて咳がひどかったので、咳止めの薬を飲むことにした。そこで私はふと思い出した。私の祖母は水なしで薬を飲んでいたなあと。

 よし、それなら私もやってみようということで早速ベッドから飛び起きた。

 飲むのはカロナール。二粒飲むものだが、流石に二粒水なしで飲む根性はなかったので一粒だけ先に水で流し込んでおいた。では、いざ実食。

 飲む前は喉を開けてそこに放り込もうと思っていた。だが、思っていた以上に薬は大きかった。喉に詰まりそうで怖かったので舌の上に出すと、最初は程よい苦みで私好みな味だった。コーヒーとかの、不快ではない苦味だ。三秒後、とても不快な苦みが私を襲った。食べたことはないが、タイヤのゴムとかはこんな味がするんじゃないだろうか。

 慌てて飲み込もうとするが、喉が乾燥してなかなか中に入らない。仕方なくつばが出るのを待つが、苦みと風邪のせいでなかなか出ない。結局飲み込むには十分な量ではなかったが、無理やり喉を動かして飲み込んだ。

 総評としては、物凄く苦くて、本来薬は味わうものじゃないということを思い出させてくれる一品だったが、私はマゾ気質があるので割と楽しかった。特につばが出ないのはゾンビが迫ってきているのにドアが開かないような絶望感があってとてもよかった。また食べたい。まずかったが割と好きな味だったので10点中7点。

 ──ということで、二錠目である。といっても、同じものではなくカルボシステインという痰や鼻水に効く薬だ。本来飲むつもりはなかったが、カロナールがおいしかったのでこちらも実食。

 カロナールは舌に乗せた瞬間から苦みがあったが、カルボシステインは最初、味がしなかった。何やらコーティングがされていた。例えるなら"粉薬を中に入れて固形にするやつ"みたいな。

 私はプレゼントを開ける子供のような気持ちでコーティングが溶けるのを待った。一体、どれほどの苦みを味わわせてくれるのだろう。どのような絶望を与えてくれるのだろう──

 いつか見た動画では、子供が大喜びでプレゼントを開封していた。たしか、ゲーム機が入っているんだったか。しかし、私は本当に得だと思う。わざわざ何万円もするようなゲーム機を買わなくても、900円ぐらいで買える薬に心を躍らせることができるのだから。しかも、私が買った箱には30以上も入っている。

 もうすぐそこだ。子供は箱のつなぎ目に手を伸ばし、引っ張り上げ

「あ”あ”っ”」

 ──そういえばあの子供は、ゲーム機の箱の中にガラクタが入っていて泣いていたな。 

 本当に気持ちが悪かった。苦みが来ると思っていたら酸味が来ただけでなく、その酸味が脳が理解を拒む味をしていたからだと思う。

 パニックになり飲み込もうとするが、もちろん詰まる。瞬間、私は思考した。

 『喉が詰まるのはいいが、このまま薬が溶けたら気管支に詰まるのではないか?』

 このことに気づいてしまったからには、パニックになってはいられない。この酸味が気管支に詰まると、風邪もあって物凄いことになるだろう。元々、私はあまり体が強いほうではない。

 指で押し込もうとすると若干嗚咽し、その時薬は胃に向かって落ちていった。正直物凄くほっとした。私はマゾだが、気が弱いタイプのマゾなのである。

 総評としては、まずい。10点中0点。酸味が口の中で広がっていくのは何か後戻りができない背徳感があり、気分としてはサノスに宝石を渡した時のドクターストレンジだった。実際、水を飲んだ今でも、まだ口の中に酸味が広がっているように思える。もしかしたら一生このままかもしれない。

 それはいいのだが、私はもしかしたら、きちんとこの薬に向き合わないまま評価をつけてしまったかもしれない。カロナールは少なくとも10秒は口の中に入れていたと思うが、カルボシステインはすぐに飲み込んでしまった。それに、喉に詰まるという私の過失のせいで、味とは関係なく評価を落としてしまったかもしれない。

 こうして振り返ってみると、私はこの薬に対して酷く不誠実だったような気がする。結局本質的なところは何も見ずに、自分にとって都合が悪いからと酷評する。結局、私もそういう人間だったのだ。少し反省して、評価を改めた。

 確かに、こいつは0点だ。だが、最高の0点だ──

(後味は最悪なうえに長引くのでそこはとても良かった)



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