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「……大丈夫かな、兄ちゃん」


「……きっと大丈夫だよ」


 兄が客人と……現状最悪の敵と共に家を後にした後。

 暫く会話した後別れた先と入れ替わるように、切羽詰まった様子で現れたアイザック支部長を見送った後。


 リタは不安そうにソファで蹲っていた。

 きっと兄に委ねられた自分の行く末よりも。

 兄の心配をしながら。


「……」


 ミカから見て、そんなリタの精神状態は決して良いとは言えない。

 昨日から波はあれど、ずっと低い水準で。

 常に最悪に程近い状態を行き来しているように思えた。


 ずっと天真爛漫で元気の塊みたいな様子を見続けて来たから。

 今のリタの様子はあまりに惨い。


 だからそんなリタと比較すると兄はまだ大丈夫だと思える。

 必死に取り繕って自分達に接してくれている兄は、リタと比較すれば健全だ。

 だけど今の状態のリタと比較なんてすれば誰だってまともに見えてくるのは当然の話で、それが即ちまともな状態なのかと問われれば絶対にそんな訳が無い。


 あそこまで打ちのめされた兄を見るのは初めてだった。

 あそこまで無力に打ちひしがれている兄を見るのは初めてだった。

 あそこまで……なんとか助けてあげたいと思わせる兄を見るのは初めてだった。


 当然、自分達の置かれた状況は誰であろうとそう簡単に改善できる物ではない。

 どうしようもない無理難題を前にしている。

 それでもそんな中でロイという兄はやれる事を最大限やってくれている筈なのだ。

 自分達の兄として他に変えの効かない。

 立派で、誇らしくて、愛おしい。


 そんな兄でいてくれているのだ。


 だけどそれでも、何をもって何かをやれたのかと判断するのは、個々人の裁量に依存する。


 きっとその理想が、ロイという兄は高いのだ。


 故に全く追い込む必要なんて無いのに、自分自身を追い込んでしまっている。

 自分達に対して本当の兄のように振る舞って、いつだって優しくしてくれた立派な兄がだ。


 だから、きっと今大きな壁に兄が立ち向かっているのだとしたら。

 立ち向かってくれているのだとすれば。

 ……お願いだから勝たせてやってくれと、今まで救われて来た妹としてはそう思う。

 当然だ。救われて来た。リタと同じようにロイにも。


(……頑張れ、兄さん)


 元気な二人を見る事が、自分に取っての幸せの一つなのだから。

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