6

「まったく、派手に始めてくれちゃって。さっきの事といい、落ち着きが無いよマコっちゃん」


 適当な所に車を止めて車を下りたアイザックは、ロイを殴り飛ばしたトウマにそう言う。


「アイザックさん……」


「この状況を見るに、予想通りキミはヴェルメリア家の事情を見過ごす事は出来なかった訳だ」


「……という事はアイザックさんもリタ君の件は把握しているという事なんですね」


「あれ? もしかしてそこまでは話進んでなかった!?」


「あなたが堂々と発言するという事は、此処に居る皆さんも了承済みだと。なんだ此処での配慮は必要なかった訳ですか」


「配慮? なんかやってたのかい?」


「ロイ君との会話が聞こえないように防音の結界を張っていました」


「……まあキミならそうするか。だけど不要だよ。僕らにはね……なんなら僕らは全員リタやロイよりも早い段階で知っていた訳だからさ」


「そうなんですか?」


 やや驚いたように言うトウマにアイザックは言う。


「僕らが知ったのは九ヶ月も前の事。ちなみに彼らが知ったのは丁度昨日の事だね」


「昨日……という事はあの一件で何かがあったのか」


 トウマは悔やむような表情を浮かべる。


「……一番デリケートなタイミングだ。俺は本当に……ロイ君に酷い事を言ったな」


「それで、そのロイ君はどうする」


 アイザックは起き上がってこないロイの上司としてトウマに問いかける。


「一部始終を見たが、彼は完全にマコっちゃんを殺そうとしていただろう。その処罰はどうするつもりだい?」


「処罰? ……握り潰すに決まっているでしょうこんなの」


 トウマは本当に申し訳なさそうな表情で顔を俯かせて言う。


「喧嘩を売ったのは俺だ。彼にとってこれは大切なご家族の問題で、俺はそれを踏み躙ろうとした側なんです。ロイ君がやろうとした事に非なんてある筈が無い……あってたまるか!」


「そう言うと思ったよ。礼を言わせて貰う。彼を人殺しにしなかったという事を含めてね」


 恐らくこの戦いに誰も加勢していない理由はそれだ。

 トウマ・コリクソンを止めるという意思はこの場の皆にあるが、ロイのやり方はいささか乱暴だ。

 そのやり方では、此処までの配慮をしてくれるタイプの善人を殺させる事になる。

 ロイを人殺しにしてしまう。

 リタを人殺しの妹に。結果的に自分の命の為に兄に人殺しをさせた妹にしてしまう。

 それは駄目だ。そんな事にはさせられない。咎める事はしないにしても。

 だからとにかく、トウマが強かった事に感謝しよう。

 そしてアイザックに礼を言われたトウマは、不機嫌そうな表情を浮かべて言う。


「ですが非がないと思っているのは、ロイ君やリタ君……いや、恐らく全員知っているであろうご家族の事だけですよ」


「というと?」


「とぼけないでください……あなた達は一体何をやってるんですか! この九ヶ月間、一体何をしていたんだ!」


「……」


 何をやっていたか。全くの部外者であるにも関わらず、此処まで踏み込んで最善を尽くそうとしてくれているトウマが何を言いたいのかは流石に理解できる。


「貴方達は、憎まれ役を買って出なければならない立場でしょう!」


 ……そう、彼の言う通りだ。


 どれだけ可能性が薄くても具体的な解決策を提示できるなら、きっと自分達のスタンスには一定の理解は示してくれるとは思う。

 だけどそれすらもできなければ、ただ目の前で起きている問題の解決を先送りにして無責任に傍観するだけになる。


 事実それが今の自分達。

 解決策は何一つ提示できない。


 現状唯一の可能性であるミカ・ヴェルメリアが行っている研究に手を貸そうにも、あまりに高次元な内容に一切付いていくことができない。

 故にただただ時限爆弾が爆発するのを見守っているだけ。

 つまり自分達は身の丈に有った行動を取れていないのだ。

 イレギュラーな事態を独自なフローチャートで攻略できる程優れてはいない。


 特に自分のような無能はその筆頭だろう。


 だとすれば取るべきだったのは合理的な選択だ。

 災害時に医師が行うトリアージのように、命の選択をしなければならなかった。

 家族内でそれが酷ならば家族外の。言ってしまえば部外者である自分達がだ。

 例え一生恨まれるような事になっても。


「……確かにその通り。キミの言う通りさ。そうすべきなのが僕達滅魂師だ」


 故にこれはどうしようもない言い訳である。


「だけど少なくとも僕にとっては同僚や部下というのは家族みたいな物でね」


 自分達が……否、自分が責任から逃げた事についての情けない言い訳。

 そんな弱音を聞かされたトウマは、どこか腑に落ちたように小さく息を付いて言う。


「まあ貴方ならそう言うしそうなるか。それに類は友を呼ぶとも言う……皆さんも同じなんでしょうね」


「勝手に代弁はできないけど、そういう方向性だよ。皆もきっとね」


「そうですか……だとしたら俺の言葉は暴言だ」


「暴言? 正論だろう。逃げていた僕達が悪いのも事実なんだから」


「それは逃げて良い事でしょう……少なくとも非難されるべきではない。俺はしたくない。だってアイザックさん達は部外者じゃないんだから」


 そう言ってトウマは複雑な表情を浮かべて言う。


「何事でもそうだ。どうしようもないような状況を強引に終わらせられるのは、内部の事情を精々上辺程度しか知らない部外者だけなんだから」


 そして強い意思をアイザックにぶつけてくる。


「だからこそ、今日俺が此処に来て良かった」


 そう言ってトウマは一歩前へと踏み出す。

 こちらへの戦意は感じない。あくまでこちらと戦うつもりは無いようだ。

 こちらが戦う意思を見せなければ。


「キミはこれからうまく立ち回って、できるだけ傷付く人が少なくなるように事を終わらせるつもりだろう」


「……ええ。だから目を瞑ってください」


「見逃すと思うかい?」


「そうしてくれると助かります」


「残念」


 そう言いながらアイザックは人差し指を頭上に掲げる。

 それで……術式は発動した。


「……ッ!?」


 62支部の敷地を覆い被す程の、半透明で巨大なドーム状の結界。


「これは……」


「昨日の一件で写身が使っていた魔術と同じ物だ。便利だねこれ。使う人間の意思によって視認性のオンオフが効く」


「なんで貴方がこれを……ッ!?」


 目を見開くトウマだが、至極当然な反応だと思う。

 トウマが此処に来たのは、レギュレーションから外れた魔術を使用した軍と上層部が、62支部に責任を押し付けようとしたのを止める為である。

 そしてそのレギュレーション違反の魔術を、よりにもよってアイザックが使用しているのだ。

 驚くのも当然の事だろう。


「今回の一件で写身の被害に会った彼は悪い奴じゃあなくてね。必死に頭を下げたら渋々ながら色々と教えてくれたよ……当然の事ながら、ギリギリ法に触れない範囲の物だけだけどね」


 昨日トウマが来る事が分かった際、いざという時に備える為に、存在するかも分からないある術式を手にしておくべきだと思った。

 その為に行動し、これはその副産物。


 通常滅魂師が扱う結界には強化や攻撃用の魔術と同様に、写身の再生を阻害する為の調整が入っている。これは写身が近接戦闘で結界を破壊した際の破片や、結界に体を叩きつけられた際にそれが致命傷になる可能性を考慮した為だが、その結果当然強度は落ちる。


 その点軍用に調整されたこの結界にはそうした余分な不純物は組み込まれておらず、それ故に強度は高い。

 もっとも強度を底上げしている要因はそれだけではないのだが。


(なるほど……中々刺激的な術だね!)


 この術は魔力の他に、少量ながら使用者の生命力をも燃料とする。

 まるで写身が人間の生命力を糧とするように。

 ……とにかく、そういう性質の軍用の結界術がこれだ。


「これ、本当に法に触れないんですかね……」


「ああ、触れない筈だ。滅魂師のレギュレーションから外れてはいるが、これ自身に明確な殺傷能力がある訳ではないからね。まあグレーゾーンだろう。だから彼も渋々ながら教えてくれた」


「確かに……いや、そうかもしれませんが何故そんな危ない橋を……」


「これでキミはそう簡単には此処から出られなくなった。集中すればキミなら結構すぐに壊せるだろうが、それはさせない。させないさ」


 そう言ってアイザックは軽く手を何度か叩いて声を張り上げる。


「さーて皆! 状況は分かっているだろう! 特等なんていう怪物と喧嘩する勇気がある者だけ集合してくれ! 勿論強制じゃないぞ!」


 次の瞬間その声に答えるように、どこからともなく62支部の滅魂師がトウマを取り囲むように大集合する。

 今日この場に居た者全員。非番な者も二名を除いて何も言わずに休日出勤していた為、今の62支部が用意できる全戦力。それがトウマを止める為に構えを取っている。


「……一応確認しておきますけど、さっきロイ君が人殺しにならなくて良かったみたいな事を言ってましたけど、他の人達や貴方自身なら大丈夫という考えですか?」


「まさか」


 そう否定するアイザックの隣に立つのはミーティアだ。


「アイツの為に誰かが人ぶっ殺しでもしたらその時点であーしらは負けなんだよ」


「……」


「回り見てみろ。誰も武器持ってねえだろ。ウチの大将が言った通りこれは喧嘩だ。死人は出さねえよ」


「拳でも人は殺せると思うが……」


「話ややこしくなるから正論止めろよマコっさん」


 小さくため息を付くミーティアの隣で拳を鳴らしながらアイザックは言う。


「彼女の言った通りだ。此処で死人を出させるつもりはない。お互いにね」


「じゃあ貴方はひとまず俺を殴り倒して暴力で説得すると」


「それで折れるようなメンタルしてないだろキミは」


 だから、とアイザックは言う。


「キミにはこの町に来てからの事を綺麗さっぱり忘れて貰おうと思う」


「忘れる……まさかそんな物までッ!?」


「そのまさか。この結界はその副産物で本命はそっちさ」


 察したであろうトウマに対して答え合わせを行う。


「この術を僕に教えた彼はね、昨日の件の一ヶ月前にも小規模だがやらかしているんだ」


「なに……?」


「術師体の写身から民間人を守る為に、彼は軍用の魔術で足止めを行っている。その際彼は現場に居た民間人に頭を下げて、性善説での口止めを行った訳だが……そんな甘いやり方が軍の緊急時のマニュアルに記載されているとは思わない」


 アイザックは指を鳴らして言う。


「ある筈だ。もっと直接的な隠蔽の手段が。少なくとも僕はそう考えた。例えば記憶を操作する魔術とかね」


「……」


「身体能力を強化したりする魔術が基本としてある以上、脳に干渉する魔術を作ることだって可能な筈だ。だが手帳から都合の良いページを見つけて破るような器用な真似は難しいとみた僕は、それが結構ごっそり持っていかれるようなタイプの物だと考えた。だから彼は使わなかった。人が良くて甘いからね……で、これがドンピシャの大当たり。今は僕の手の中さ」


「これも多分ギリギリ法には引っ掛からねえだろ。殺傷能力がある訳じゃねえし……まああーしらには教えてくれなかったけど」


「万が一引っ掛かっていたら面倒だからね。それに一晩で辛うじて覚えきった物をすぐに教えられる程、僕は有能じゃあないから」


「一晩で覚えた奴が良く言うよ」


「普段動かしてない分、頭をグルグルっとね。まあとにかくだマコっちゃん」


 そして覇気の籠った声音でアイザックはその意思をぶつける。


「キミには何が何だか分からないまま、帝都に帰ってもらう」


「……成程。あなたのやりたい事は分かりました。相変わらず滅茶苦茶やる人だ」


 トウマは軽く深呼吸をしてから構えを取る。


「折角舗装して貰った逃げ道ですが、そこを通って帰る訳には行きません」


「……此処で負ける事を逃げ道だと思っている辺り、余計に負けられなくなったよ」


 そう言ってアイザックも構えを取った。


「じゃあ始めようか。あんまり長期戦になると結界の維持がしんどいんでね」


「尚更早く終わらせましょう。記憶を消す術を持っているのがアイザックさんだけなら、あなたを倒せば実質俺の勝ちだ」


「……ミーティア、これもしかして僕やらかしてないかい?」


「やらかしてるよ。ったくマコっさん……それは気付いても言ってやんなよ。言って良いタイミングと悪いタイミングあんだろうが。珍しく真面目な事言ってんだからよ」


「あ、なんかすみませ──」


 こちらの空気に呑まれるように申し訳程度に謝罪しようとするトウマは──、


「――ッ!?」


 彼にとっては突然背後から放たれたであろうリーリアの蹴りを、体を反らす事で辛うじて躱す。

 始まりそうで始まらず、そのまま続いた会話の中の突然の不意打ち。


「ふ、フライングだろこれは!」


「さっき始めるって言ってたっすよ、ね!」


 そして追撃の拳……それだけじゃない。


「それにこんな喧嘩、ルールも何もないでしょう!」


 既に忍び足で近づいていたスレイを含め、全員がそれぞれ動き出す。


(……変わってないな、マコっちゃんは!)


 トウマ・コリクソンは最強の滅魂師である。

 写身と戦わせれば、彼程頼もしい人間はいないと断言できる。


 だが喧嘩となれば話は別だ。

 プライドの欠片もない、ダーティな立ち回り可なら尚更。


 彼はそういう喧嘩に対する経験値を殆んど積んでいないのだ。


 そしてその経験値の無さは、滅魂師として強くあればある程、より重い足枷となる。


《拳でも人は殺せると思うが……》


 自分達が一般の人達に対して簡単にそれが出来てしまうのと同じように、言葉の通り彼は自分達に対してそれができてしまう。

 故に彼にこちらを殺してまで先に進む意思が無い以上、死なない程度の力加減を意識して戦わなければならなくなる。


 対するこちらは逆だ。


 武器こそ使っていないものの、視界の先でトウマに攻撃を打ち込んでいる者は皆全力だ。

 コリクソン特等という絶対的な強さを持つ滅魂師に対して、自分達程度の攻撃ではやりすぎなければ致命傷を負わせる事はないという確信がある。

 つまりこの戦いはあまりにも大きなハンデ戦だ。


 本来の力を殆んど使えない最強対全力の精鋭30人。


 ……かなり良い勝負ができる筈だ。

 そして前衛の援護の為に指先から魔術弾を打ち込みながら、その八割近くを回避するトウマとの。

 こちらの部下に取り囲まれ全く切れ間と隙の無い近接格闘を仕掛けられる中で、直撃を可能な限り減らして一人、また一人と殴り飛ばしていくトウマとの勝率を演算する。


 ……2割程度と見た。


(やろうとしている事に対して成功するビジョンが見えているだけでも上等だよ!)


 そう脳内で叫んだアイザックとトウマとの間に、一瞬僅かな道筋が出来た。

 有能なトウマはそれを逃さない。

 アイザックの部下達を潜り抜けこちらへ飛び込んでくるために重心を傾ける。

 そんなトウマと目が合った瞬間、アイザックは目を見開いて北西の空を見上げ、今日一番の大声で叫んだ。


「全員止まれ! マコっちゃんもだ!」


 アイザックという人間を知るもの程似合わないと認識する、明らかに緊急性のある叫び声。

 それこそ内輪で争っている場合では無くなったかのような。

 その一声で、その場の時が止まった。

 その場に居たアイザックの部下達が全員動きを止め同じ方向を向き、場の異常性を察したようにトウマも一瞬遅れて体勢を建て直し、同じ方向を見上げる。


 視界の先。この季節が旬な野鳥が飛んでいた。

 初夏でやや季節外れに思えるその鳥は鍋の具材にするのが一番うまい。良い出汁が出て締めの雑炊が最高だ。うどんでもいい。

 ……ただそれだけ。


「ガ……ッ!?」


 次の瞬間、苦悶と困惑に溢れた苦い声がトウマから溢れ出す。

 全員が視界を戻すとそこには……ドロップキックをぶちかましたミーティアと、凄まじい勢いで弾き飛ばされるトウマの姿が合った。

 そして蹴り飛ばしたミーティアは叫ぶ。


「っしゃあ今だ! 死なねえ程度に叩き込めるもん叩き込め! マコっさん病院送りにすんぞ!」


 その掛け声と共に、全員一斉に各々が適切だと判断した中距離射程の魔術を打ち込んだ。

 野鳥を眺めていた数秒の間に、この状況を想定して術式を組み上げたのだ。

 やがて攻撃に攻撃を重ね、トウマの周辺に砂埃が舞い上がり視界から消える。


「なーんか悪役っぽい戦い方っすね」


「それもかなり三下ですよ。プライドの欠片も無い」


「うるせえ勝てば良いんだよ勝てば!」


「ますます悪役っぽいっすよ……」


「まあ実際どちらが正しいのか、天秤に乗せれば沈むのはマコっちゃんの方だろうさ」


「確かに……認めたくはありませんが」


「で、まだ止めねえのか? これ流石にやりすぎじゃねえのかよ?」


 自身と同じように指先から魔術弾を打ち込み続けるミーティアの問いに答える。


「いや、止めるな。この程度でマコっちゃんは削りきれない」


 そう言った次の瞬間、一番人数が固まっていて弾幕が厚い所目掛けて、腕に盾のような結界を張ったトウマが砂煙から勢いよく飛び出していく。

 そしてその場に居た数名を、瞬く間に殴り飛ばした。


「ほらね……ピンピンしているだろう」


「うわ、マジかよ何食ってたらああなるんだ!? アスファルト!?」


「とりあえずパンよりはご飯派だ。実家が米農家だからね。ちなみに好きな食べ物はカレーうどんだ!」


「凄まじく要りませんねその情報」


「ていうか難儀っすね、特等の制服白いのに……」


「いや紙ナプキン使えば問題ねえだ──」


 言いかけていたリーリア含め、近くの全員が息を飲んだ。


 アイザック達のすぐ横を、殴り飛ばされた部下が地面を跳ねながら勢いよくぶっ飛んでいったからだ。


「人の個人情報をペラペラと……それに何ですか今のは!」


 見るからにボロボロになって肩で息をするトウマは、飛びかかってくるアイザックの部下の攻撃を捌き反撃を打ち込みながら言う。


「一体普段どんな訓練をしているんだ貴方達は!」


「訓練でこんな馬鹿な事をしようとしたら、ミーティアにしばき倒される。即興だよ」


「……ッ」


 驚愕の表情を浮かべるトウマだが、アイザックも内心同じ気分だ。


(想定はしていたけど、流石にピンピンしすぎだろう)


 無防備な所に叩き込まれた、人体が勢い良く弾き飛ばされる程のドロップキック。

 それからの少なくとも最初の方は防げず直撃を食らっていた筈の、各々の魔術攻撃。

 それを受けて、未だにある程度問題なく戦闘を続行できているのだ。


(知らない所で死にそうに無いのは嬉しいことだけども……今だけ柔らかくなってはくれないもんかな)


 複雑な心境のまま構えを取る。

 ……それなりに削れてはいる。だがこちらも気がつけば三割近い面子が。それも率先して前に出るタイプの者が中心に倒れている。

 導きだした二割という数値はおそらく正しい。非常に厳しい状況。

 ……つまりはギリギリ想定通りという訳だ。

 既に三割が倒されているような状況を想定に入れている以上。

 皆が必死に想定通りの働きをしてくれている以上。


「さて、此処までも此処からも本番だ。此処からも存分に翻弄されてくれると助かるよ」


 尚更負ける訳にはいかない。

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