11
あの後、なんだかんだ過剰な人数がアイザックさんと一緒に支部へと向かっていった。
着いていった人曰く自分達は酔っぱらいだから一人で一人分の仕事ができないからだそうだ。
その中に兄ちゃんもいる。
酒が入っていてちょっとおかしくなっているとはいえ、根っこが真面目なのは変わってない訳だし、自分も行きますと手を挙げるのは当然かなとは思う。
そう考えると先に家に顔を出したのはやっぱり正解だったのかもしれない。
そんな訳で私は悪酔いしたミーティアさんを家へと送って吐かせたり水を飲ませたりした後、一人で帰宅してきた。
「たっだいまー」
「おかえりリタ」
帰宅しリビングへと向かうと、ソファに座り読書をするミカの姿が目に入った。
「まだ起きてたんだ」
「調子良い日は悪い日にできない分、色々とやりたい事消化する。いつも通りの事だよ」
「そだね」
それが結果的に調子悪い日を増やす事に繋がっているんじゃないかとは毎度思う訳だけど口には出せない。出せる訳がない。
やりたい事をやれるだけやっている私とは違うんだからさ。
「お母さん達は?」
「ちょっと急患って事で外に出ていったよ」
「忙しいね、二人共」
「うん」
ミカは手にしていた本を置いて、少し間を開けてから呟く。
「だからたまに申し訳ない気持ちになるね」
「そういうのよくないよミカ」
自然とミカの隣に座りながら、至極当然の事を言う。
「悪いのは全部ミカの写身なんだからさ。あと悪いで言えばさっさとミカの写身を発見できない滅魂師サイドも悪い訳で! つまり私も悪い!」
そんな事を言ってもミカは真面目で優しいから、それで納得しないのは分かってる。
「それはそれ、これはこれだよ。あとリタは何も悪くないんだから、変な気を使って自分を下げるのは禁止ね」
だから予想通り、そんな言葉が帰ってくる。
まあ納得されなくても言うんだけどさ。
実際事実で私もそう思ってるわけだし、何も自分を下げている訳じゃない。
……で、こんな話をしていても延々とループし続けて不毛というのは長い付き合いだからお互い分かっているわけで。
「それで、兄さんは?」
自然と話は別の話題に切り替わる。
「兄ちゃんは他の人達と一緒に支部に行ったよ。今日当番のお酒飲めない人が飲んじゃって、その代わりって事で。ほら兄ちゃん真面目だから」
「確かに兄さんらしいね」
「でも今日初めて知ったんだけど、兄ちゃんお酒飲むとちょっと雰囲気軽くなるんだよ。あれは絶妙に知らない兄ちゃんだった……あーそれ見せる為にも連れて帰ってくれば良かったかも」
「この先また見る機会あると思うけどね。ほらお父さんもお母さんもお酒好きだし。特にお父さんは兄さんと飲みたがってたから」
「だったら近日中に見られるかな」
「楽しみだなぁそれ」
楽しそうにミカは笑った後、一拍空けてから言う。
「リタは酔ったらどんな風になるんだろうね」
「お父さんは特に変わらないし、兄ちゃんも激変する訳じゃ無いから私もあんまり変わらないんじゃないかな」
「いやーそこは参考にならないんじゃないかな。ほら、血も繋がって無いし」
「まあそうだけど、こういうのも環境に影響されたりするんじゃない?」
「うーん、関係無いと思うけど。体質の問題だったりしない?」
「だったら私が酔ったらの予想には全然役に立たない情報だけど、ミカと私は同じ酔い方するって訳だね」
「確かにボク達ならそうかも……試してみる?」
「どうやって?」
「お父さんの買い置きがあるよ。一本借りて、明日にでも兄さんに代わりを買って来て貰えば完全犯罪が成立すると思うんだ」
そんな結構とんでもない事を言い出したミカの表情は正直、本気で言ってるのか冗談を言っているのか分からない。
その位には楽しそうなんだよね。
まあバレたら二人共……いや場合によっては兄ちゃんも怒られるだろうな。
とはいえ未成年が酒飲んでも捕まる訳じゃ無いし、私も正義マンって訳じゃ無いからその辺は気にしないんだけどさ。
兄ちゃんには悪いけど。
……だとしても。
「止めとこうよ」
「えーなんでー……ってまあ分かるんだけど。心配してくれてありがと」
「うん」
正直全く知識無いし、かなり間違った認識をしているかもしれないけど、お酒は多分体に良い物では無いんじゃないかと思う。
だからこそ年齢制限がある訳で……煙草と一緒だよね。
そんな物を今のミカに摂取させるわけにはいかない。
今のミカには。つまりいずれは。
「全部終わったら吐くまで飲もうよ」
「…………そうだね」
そう返答したミカの声音は明るい。
だけど明らかに不自然に感じた間。その正体は嫌でも伝わって来るよ。
「いや冗談冗談頷かないでよ! 吐くまで飲んだり飲ませたら、もう酔い方見る所じゃないよ! 絶対地獄見る奴だから!」
「ははは。でも吐いたりするの私ボクの方が慣れてるからアドバンテージあるかもしれないね」
「なんとも言い難いカードを切るの禁止ぃ……返答に困るよ」
「じゃあボクの勝ちだね」
「なんか勝負してたっけ?」
「とにかくボクの勝ちです」
そう言って笑うミカは多分、私が承諾すればこの場で本当にお酒を飲みかわすつもりだったんだと思う。きっといつもと同じ理屈だ。
『調子良い日は悪い日にできない分、色々とやりたい事消化する。いつも通りの事だよ』
そんな生きにくいミカなりのやり方がそのまま当て嵌められている。
だけどいつもと違うのは。違うと思えたのは。
昨日できなかった事を、明日できないかもしれない事を今日やるというような事じゃなくて。
少し遠い未来のできない事を、やれる今やっておこうというある種未来への諦めの様な物に思えたんだ。
あの時きっと想像できなかったんだ……全部終わった時の自分を。
「さて、ボクは勝者なのでリタが淹れたコーヒーが飲みたいです」
「結局何に負けたんだ私……ブラックで良い?」
「良い訳ないよ。お砂糖たっぷりで」
「はーい」
勿論、悲観的な考え方を止めろなんて事は口が裂けても言えない。
ミカの抱える問題で、一番苦しんで辛い思いをしながら頑張っているのは他ならぬミカだから。
一言二言の弱音も許してくれないような、受け入れてくれないような人が居たら、私はソイツの胸倉を掴んでぶん殴っているかもしれない。
大事なのはそれを言わなくても良い様にする事なんだ。
……だから引っ張り上げる。
今私が歩めている幸せの高さまで。
充実していて未来がある。そういう高さまで。
その為に明日こそ私の前に倒すべき加害者が現れますようにと祈るんだ。
もう偶然を物にする為の力はこの手にあるんだから。
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