第3話 二人だけの打ち上げ
居酒屋の小さなカウンターに二人だけが並んで座り、夜の街のネオンが窓越しにちらちらと差し込む。
外の
「今日は、村瀬くん、初めての担当案件成功のお祝いね」
結衣がふわりと微笑み、グラスを差し出す。
その仕草は上司としての威厳だけでなく、大人の女性の柔らかさも兼ね備え、俊太郎の胸に小さなざわめきを起こす。
「はい…乾杯」
手が少し震え、グラスが触れる瞬間に小さく音を立てる。
俊太郎は視線をそらしつつ、心臓の高鳴りを必死に抑えた。
「村瀬くん、よく頑張ったわね」
結衣の声は落ち着いているが、冷静な褒め言葉の中に誠実さを感じる。
資料の準備やプレゼン中の気配りを具体的に挙げられるたび、俊太郎は顔が熱くなる。
「いえ…僕一人では、絶対に無理でした。新藤さんのフォローがあったからこそです」
言葉を紡ぎながらも、隣に座る結衣の手元や横顔に意識が吸い寄せられる。
スーツの裾からのぞく脚、微かに香る柔らかな香水の匂い。
理性では抑えきれないが、口には出せない感覚が胸を締め付けた。
結衣は軽く微笑み、箸を動かしてつまみを手に取る。
普段の厳格さが少し和らいだ瞬間に、俊太郎は息を呑む。
冷静さと柔らかさが同居するその表情は、単なる上司の顔ではなく、一人の女性としての存在を強く意識させた。
グラスを傾けると、酒の香りが鼻をくすぐり、頬をほんのり赤く染める。
俊太郎は心の中で、今日一日の成果を喜ぶよりも、目の前の人を意識している自分に気づく。
手の震えや指先の微妙な動きが、無言のうちに彼の緊張と期待を伝えていた。
「改めて、ありがとうございます。今日ここまで来られたのは…」
言葉をつなげる俊太郎に、結衣はクスリと笑って応える。
軽い笑い声が店内の静けさの中で柔らかく響く。
「私もたまには仕事から逃げたくなるのよね…もう少し、気楽にやれたらいいんだけど」
普段の鋭さを失い、少しだけ弱音を含んだ結衣の声に、俊太郎はすぐに心配そうに声をかける。
「新藤さん、少し飲みすぎですよ」
結衣は軽く笑い、グラスをそっと置いた。
「大丈夫、村瀬くんがいるから心強いもの」
その言葉には、どこか安心感が宿っていた。
俊太郎はその仕草ひとつひとつに戸惑いながらも、どこか心を許された気分になる。結衣の手がそっと肩に触れ、温かさが伝わる。
わずかなスキンシップに、胸が跳ねた。
「でも、本当に助かったわ…村瀬くんが真面目に取り組んでくれたから」
微笑む結衣の声に、二人きりの時間が職場とは違う空気を生み、俊太郎の意識はますます彼女に向いた。
まだ軽い酒の影響か、結衣の冷静さは完全には崩れていない。
しかし、その笑顔や柔らかい口調の一瞬一瞬が、俊太郎の心を掴んで離さなかった。
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