動画書き起こし②
配信時間09:59〜
アタルはカメラを持ったまま暗い部屋の中を移動する。リビングらしき部屋を出て真っ直ぐ伸びる廊下の右手側の扉を開ける。開けた先は洗面所で、左手に浴室があった。アタルは浴室の戸を開けて中に入る。
『それでは午前三時になりましたので、ひとりかくれんぼを開始します。えーと、まずは同じ文句を三回繰り返すんだよね。鬼役はまず俺からだから……最初の鬼はアタルだから。最初の鬼はアタルだから。最初の鬼はアタルだから。はい、繰り返しました。これでいいんだよね? そんで、人形をこの中に沈めると。よいしょっと……はい、見えますかー? ミレイは浴槽に沈められました』
アタルが持つカメラが浴槽の中に向けられる。水を張った浴槽の底に人形がうつぶせの状態で沈められていた。
チャット欄も盛り上がりを見せる。
圧縮さま:うわあ……
オカルティックサラサラ:人形でもえぐ
食っちゃ寝食っちゃ寝:マジでやったよコイツ
リゾットバイト:実質元カノを沈めたようなもんだろ
『そんで次はー、家中の電気を消す。これはもう消してるからいいっしょ。で、テレビを砂嵐状態にする。はいはいテレビね。テレビテレビっと』
スマホのライトを頼りに浴室からリビングに戻ったアタルはテレビをつけるとリモコンを操作、砂嵐を発生させた画面をカメラに収める。
『これでいいかな。それから目を瞑って十秒数える、と。たぶん心の中で数えるんだろうけど、それじゃわかりにくいんで口で言います。はいいーち、にーい、さーん、しー、ごー、ろーく、ななー、はーち、きゅーう、じゅう。数え終わりました。
これからミレイを見つけに行きます』
アタルの宣言によりチャット欄は更に盛り上がる。
囮匣:ミレイ逃げて超逃げて
オカルティックサラサラ:目がイっちゃってない?
コメントに構うことなくアタルは台所に寄り、シンク下収納から包丁を持ち出すとその足で浴室に向かった。
『ミレイみーつけた』
浴槽に沈められた人形を引き摺り出し、水が滴り落ちる人形に刃物を突き立てる。言葉を発さず何度も何度も執拗に刃を振り下ろす。綿の代わりに中に詰めた米粒がこぼれ落ちてもアタルは手を止めない。
アタルの危機迫る様子にコメントは阿鼻叫喚となった。
リゾットバイト:これヤバくない?
囮匣:もう何かに憑かれてるって
食っちゃ寝食っちゃ寝:ミレイのことどんだけ怨んでるんだよ
人形を突き刺す仕草をやめたアタルは何事もなかったようにカメラを向いた。貼りつけたような笑みを浮かべている。
『さて、次は僕が隠れる番です。次の鬼はミレイだから。次の鬼はミレイだから。次の鬼はミレイだから。これも三回唱えました。
で、ここから僕は家の中に隠れます。事前にコップ一杯分の塩水を用意してるんで、そこに行きまーす』
アタルが移動を始め、カメラが揺れる。一瞬だけ画面にノイズが走る。
『隠れ場所はここ、ベッドの下! ほら、コップに入った塩水も置いてあるっしょ? もちろんエロ本なんかはありませーん。残念でしたー』
アタルはカメラを持ったままベッドの下の隙間に潜り込む。隙間は人一人が寝転がれる充分な余裕がある。
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