ツーショット。【詩】

ドラもり

記憶の暴動。

独りよがりな性格で文字を綴る僕の夏に迫った春。僕はその虚像の春を拒絶した。

 先の体育祭で、借り人競争で連れたあのとのツーショットを、僕は断った。後悔しても遅いと周りが言ったが、その一時の後悔とやらはその後の評価が上回った。


 ふと小4の頃を思い出す。天の川銀河の逸話は、僕の現実によみがえった。僕を好きだと宣言した清らかで、でも煌びやかだったあの娘を。かつてダンススクールにいた僕は、そこで友と色恋話に移った。そこで奴が吐露したことが、災いか幸いかは分からないが、彼女が相愛であると暴露した。この奇跡を奇跡と知らずして平然と受け入れたのは、やはりこの幼さ故であった。腰がすわっても椅子に腰かけて熟考するには程遠い頃。やがて発表の場で華麗なダンスを披露し、終わるが否や彼女は一目散に駆け寄ってきた。ツーショットを迫ってきた。また他の日にはかなり豪快に手繋ぎを求めてきた。流石にこの歳でも、僕はこの莫大な奇跡を源流とする幸福を享受するべきだと理解していた。初めての恋すべき相手が形成した標準、衝撃、刺激が高く、それは今となって僕の障壁と化した。素直に可愛らしい。それは顔という物差しでしか図れない、浮遊した高校生の恋愛観を叩き割る、本来の可愛らしさ、仕草、所作であった。そしてトドメとなった事項は、齢10とは思えぬ教育水準、人間性の確立が僕を惑わせに惑わしたことであった。華麗なダンスの後に起きた悲劇、幼稚な僕の横転・出血にはいち早く介抱し、知らぬ間に辿り着いた先は、併設された医務室であった。なんとも素早かった。そしてあの時の心配顔は、もはや大人身を帯びていた。連鎖が途切れてしまったのは、ケータイやらスマホやら個人間の連絡手段が無く、彼女がダンス教室を辞めることは、即ち関係の終了を意味していた。

 あの特別な空間は過去の栄光と化した。離さない方法が無かったか、いつまでもその思考に苦慮するのだ。しかし苦慮するだけ無駄な話で、恐らくは二度と会う機会がない。

 彼女は男の子の僕を、たぶらかしていたわけではなかった。本気で好意を抱いていた。それは彼女の天女の眼差しが告げていた。時間が経つことの美化を多少含もうが、多少のからかいも含め、僕は最高峰のもてなしを賜っていた事実に変わりはない。そこで恋人でないか、そもそも論が絶対的に恋人とはなれないと証明するのなら、高校生のあのようなツーショットは、呪物そのものである。


 思い出のピースは、二度と対面することのない相手、端的に言うと既に今は存在しない相手との、過去を掘り起こすキーとなる。奇跡だろうと偶発だろうと、この衝撃は下手に心の拠り所とする。そしていずれは絶望の淵に立たされやがて崖崩れにより奈落へと向かう。こうして千の文字の語りに繋がる程度に大切な思い出というのは、生涯忘却することのない心の空間に残すものだ。今の僕は哀しみと喜びの対応できない不可解な感情にさいなまれる。

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ツーショット。【詩】 ドラもり @Doramori

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