『ねぇ、』
@30907
『ねぇ、』
ねぇ、私の子供の頃の話、してもいい?
いいけど急にどうしたの、って?
特に理由はないんだけど、この前ふと思い出したことがあって…ちょっと誰かに聞いてほしくなったんだよね。
いい?ありがとう。
子供の頃、私は小さな神社のある村に住んでいた。
住人以外この村のことを知ってる人なんかいないんじゃないかってくらい小さな村。
それでも私はこの村が大好きだった。
私には一人、少し変わった友達がいた。
綺麗な黒髪の男の子。名前は今となっては思い出せない。
…いや、そもそも教えてもらえなかったんだっけ?
好きに呼んでいいよって言われたから、「クロ君」って呼んでた気がする。髪が綺麗な黒だったから。
え、日本人は大体みんな黒髪だって?いや、そうなんだけどそうじゃなくて…なんか特別綺麗に見えたんだよ。
…あー…それでね、
「なんか犬みたいな名前だね。可愛いからいいけど。」
そう言ってその子は笑ってくれた。初めて会った時の会話はそんな感じだった気がする。
そもそも初めて話したのはいつだっけ。
ああそうだ、お祭りの時。
私の住んでる村では年に一回、お祭りがあるんだ。
あ、屋台が並んだりとかするお祭りじゃなくて…小さなお神担いだり、お供えしたり、豊作を祈る儀式をお祭りって呼んでたの。
だから子供にとっては大人の人たちがなんかやってるな~くらいの感覚でさ。
もっとはっきり言うと、すごいつまらなかった。
だって村の大人全員お祭りに駆り出されるからさ、子供だけ置いていくわけにもいかなくて子供達も連れていかれたわけ。
でも屋台とかないし、やることないからボーッとお神奥担いでるのとか、儀式をやってるの見てるんだよね。
ほんと退屈。
なんか面白いことないかな~なんて思ってたら、少し遠くに男の子が座ってるのが見えたんだ。
とにかく暇だったし…昔は人見知りなんてしない子だったからさ。
「ねぇ、何してるの?」
って声かけてみたんだ。
「別に何も。君は?」
そう答えてくれた。
それが後のクロ君ってわけ。
さっき子供達って言ったけどさ、小さな村だから住人全員知り合いって感じでさ、同年代の子はみんな友達だったの。だからこんな子いたっけ?って思ったけど…私もクロ君も子供だし。何も気にせず「暇してる。」って答えたんだよね。
クロ君ちょっと変わった子…というか、なんか妙に落ち着いてるというか…大人びてる子でさ。
「毎年同じことばっかりしてるから、僕もつまらないんだよね。舞とか唄とか…もっと色んなことしてくれたら見てて面白いのに。それにその方が、神様も楽しいでしょ。」
って、大人達がお神輿担いでるの見ながら言ってて。
なんか、変わった子だなーってその時は思ってたんだよね。
でもその後も話してみたら結構楽しくてさ。
「君と話すの楽しいな。お祭りなんかより全然いいや。また話してくれる?」
ちょうどお祭りが終わったくらいにそう言われて、私も楽しかったからすぐオッケーしたの。
で、その後すぐにお母さんに呼ばれたから、その日はまた話そうねって言って別れた。
今思えば普通の人とは少し違った視点で物事を見れる子だったのかな。その時以外にも…なんか哲学的なこと言ったり、物事の核心を突くようなことよく言ってたな…。その時理解できてたかは怪しいけど、私クロ君の話が大好きでさ、いつもたくさん質問しちゃってたけど、クロ君優しいから、なんでも答えてくれたんだ。
あ、でもク口君自身のことを聞くとはぐらかされてた気がする。実際名前すら教えてもらえなかったし。
次に会ったのはいつだっけ?
あ、二週間くらい経ってからかな?
確か・・・神社の近くでかくれんぼしてた時。
私探すのも隠れるのも下手くそでさ。あまりに下手だからほかの子に馬鹿にされてたの。
その日は最初に私が鬼で、やっぱり。全然見つけられなくて…
「ねぇ、何してるの?」
急に後ろから声かけられたの。なんか聞き覚えある声だなって思って振り返ったらやっぱりクロ君でさ。
「かくれんぼしてるんだ。クロ君もやる?」
って聞いてみたら首傾げてた。かくれんぼ知らなかったらしい。
「隠れてる子がいるからそれを探すんだよ。」
「なんだ、そんなの簡単だよ。」
「え?」
その後あっという間に全員見つけちゃったんだよね。
ズルするなって怒られるかなって思ったんだけど、誰も何も言わなかったなぁ。
逆に私が隠れることになった時はクロ君がいい隠れ場所を見つけてくれて、その時鬼やってた子が「ギブアップ~!!」って叫んでたの面白かったなぁ。
最後まで見つからなかったのなんて初めてだったからすごい嬉しかったんだ。
そのまま暗くなるまで遊んで、また遊ぼうねってお別れしたの。
別にさ、それくらいだったらなんとも思わなかったんだよ。
「ちょっとかくれんぼ上手な変わった子」くらいの認識で終わったはずなんだけどさ。
うん、そういうこと。それくらいじゃ済まないことが起こり出したわけ。
一番驚いたのは…いつだっけ?あれからよく会うようになったから忘れちゃった。お父さんとお母さんと隣町に出かけた時があってさ。私が住んでいたところよりはかなり都会でね。
はしゃいでたら…迷子になっちゃって。多分お母さんとお父さんも買い物とかに夢中で、私のことよく見てなかったんだよね。
気がついたら人混みに揉まれてよく分かんないところに来てたの。
泣いたりはしなかったんだけど、とにかく混乱してて…その場にいればいいのに更に歩き回っちゃって不安になりながら歩いてたら…急に人混みから抜けれて、目の前にクロ君がいた。
「ねぇ、何してるの?」
クロ君はそう言って首を傾げてた。
クロ君に会えて私安心しちゃって…何でクロ君が一人で隣町にいるのかなんて、全然気にしなかったんだ。
「お母さんとお父さん.どっか行っちゃった。」そう言ったらクロ君がまた首傾けてさ。
「会いたい?」
って聞くの。うんって言ったら私の方に歩いてきて…突然目を塞がれたの、両手で。
「え、何してるの?」
「目、閉じて。」
「えっと…」
「いいから、」
言われた通り、私は目を閉じた。
「いいって言うまで目を開けたら駄目だよ?」
クロ君の声が聞こえて…そしたら私、浮いたの。
そう、浮いた。フワッと…地面に足がついてる感覚がなくなったし、風が頬にあたってる感じがしたから、ほんとに浮いてたんだと思う。
それでちょっと経ってからまた地面に足がついて、クロ君の手が離れる感覚がした。
「目、開けていいよ。」
クロ君の声が聞こえたから目を開けたら、少し先にお母さんとお父さんがいた。
お母さんもお父さんも驚いてたよ。どこ行ってたの!って怒られたし。
説明したかったんだけどね、子供だったし・・・何より肝心のクロ君がどこにもいなかったから全然信じてもらえなかった。
その次に会ったときに聞いてみたんだけど、はぐらかされちゃった。「そんなことあったっけ?」って。
他にも何度も不思議なことがあったんだよね。
私が思ってることを言い当ててきたり、一緒に遊んでたらまだ姿も見えてないのに私のお母さんが迎えにきてるって言ったり…あとなんかあったつけ…あ、出かけた先でよく会った気がする。クロ君の方はいつも一人だったっけ。手を振ると笑顔で振り返してくれて…嬉しかったなあ。
え、今はその子どうしてるのかって?
うーん、それが分かんないんだよね。
初めて会ってから四、五年?くらい経った時かな。突然引っ越しちゃったんだ。
家で留守番してたら突然クロ君が訪ねてきて…「急だけど引っ越すことになっちゃった。だから明日から会えないんだ。」って。
ほんと急に、あっさりとそんなこと言うから。私びっくりしちゃって。何度も「会えないの?」「本当に?」「絶対?」って確認して困らせちゃった。
「うん、本当に…無理なんだ。」
すごい悲しそうな顔してたなぁ…あ、でも帰り際に急に笑顔になってさ、
「ねぇ、いつも楽しませてくれたから。これお礼にあげる。」
真っ黒な…あれなんて言うんだっけ、まがまが?
あ、勾玉だ。
ま、とにかくそれの形したキーホルダーくれたの。
なんかクロ君の髪みたいな綺麗な黒色だなあって思った。
「大切にしてね。約束。」
それが最後。それっきり会ってないんだ。
不思議な話だよね。
え、なんでこんな話したのって?
さっきも言ったじゃん、特に理由はないよ。
…何か他に気になることがあるの?って…
あー…うん…信じてくれるか分からないんだけど、
何日か前にさ、同じ街に住んでた幼馴染と久しぶりに会ってさ。
昔こんなことしたよねー、とか話したわけ。
その子とは…ほら、さっき話した「かくれんぼ」を一緒にやったりしてたからさ。
綺麗な黒髪の男の子覚えてる?って。大人びてて、かくれんぼすごく上手な私達と同い年ぐらいの子、って。
そしたらその子、「そんな子と遊んだことなんかないよ?」って。
いや、その子が忘れてるだけかなって思ってさ、家に帰ってからお母さんに電話かけて聞いてみたの。
「よく私が一緒にお話ししてた男の子、覚えてる?」って。
「あなたいつも一人で遊んでたじゃない。」お母さんにそう言われたんだけど、耳を疑ったよね。
お母さんの目の前で会ったことも、手を振ったり話をしたこともあるよ?
一番よく遊んだり話したりしてた子なのに忘れることある?
でも、ほんとにそんな子知らないんだって。
…あぁ、私もその可能性お母さんに言われた。
確かにイマジナリーフレンドってのもよく聞くし、でも私にあんな達観した思考ができるとも思えないんだよね。
それにほら、勾玉のキーホルダーあるじゃん?あれ、今も持ってるの。
私買った覚えないのになんで持ってるんだろう?って。だってイマジナリーフレンドだったら物なんて買えないはずじゃん。
クロ君は、人じゃなかったのかな…?
え、驚すぎじゃない?…そんなことない?
…そういえばあの頃からお祭り、やらなくなっちゃったんだよね…
今まではつまらなかったのに、クロ君とたくさん話せる日だからいつの間にか楽しみにしてたんだよね。
あー、会える日減っちゃったな・・・って…悲しかったな。
…その次の年くらいにクロ君引っ越しちゃって完全に会えなくなっちゃたんだけどね。
あ、なんかごめん!暗い話になっちゃった!話題変えよ!
この前のレポート課題どんなテーマで出した?I
…人はなぜ宗教を信仰するのか?
……………なんか難しそうだね。
アパートに帰ってからお母さんに電話した。
毎週水曜日に電話して近況報告する約束なんだ。
あ、もしもしお母さん?
うん、元気だよ。
そういえばあの神社って今どうなってるの?お祭りいつのまにかやらなくなっちゃったじゃん。
…え、取り壊したの?管理してくれる人がいないから…
そっ…か…うん、そうなんだね。
いや、よくその近くで遊んでたからさ。無くなっちゃったの…寂しいなって。
うん、お母さんも体調に気をつけてね。うん、また連絡するよ。
またね。
次の日、講義を受けようと教室に入ると、君はもう席に着いていた。
ん、おはよ。
…え、なんか元気ないって?
いや気のせいだと思…あー、ほんと誤魔化し効かないよね…
…昨日話した神社あるじゃん。取り壊されちゃったらしいんだよね。
よく遊んでたし…クロ君との思い出の場所だからなんか…寂しくなっちゃって。
誰もクロ君のこと覚えてないし、思い出の場所も無くなっちゃって、クロ君の存在が消えてってる気がして…このまま何もなくなっちゃいそうで…怖いんだよね。
…え、私が…覚えてればいい?
たとえ何も無くなっても、私の記憶が証明になる…私が覚えてる限り…クロ君の存在は消えない…
………そっか、そうだね。
君ってたまにすごい哲学的なこと言うよね。
あ、嫌なんじゃなくてね?すごいなって思って…
ほんと、ありがとう。これからもクロ君のこと、覚えてていいんだって思えたよ。
え、なんでそんな顔するの。もっと怖がってるのかと思った?
ああ、人間じゃないかもしれないから?
いや、なんというか…ク口君が何だったとしても、あのとき一緒に遊んだ事実は変わらないじゃん。
私にとってクロ君は、一番の友達だから。
あ、あの時の私にとってはって意味だよ?今の一番の友達はもちろん君だからね。
え、笑いすぎじゃない?!
嬉しかったから?それならいいんだけど・・・
…昨日さ、何でクロ君の話をしたのかって聞いてきたじゃん。
ちょっと……いや、かなり変な理由だからあんまり言いたく無かったんだよね。
え、そこまで言われたら気になるから教えて?…ええ…絶対笑わない?…約束だよ?
何というか…君になら話してもいい気がしたんだよね。
うん、直感というか何というか…
君なら変な顔せず聞いてくれそうな気がしたというか…
いや、でも一番の理由は…………
君の髪が…すごく綺麗な黒だったから、かな。
「ねぇ、何してるの?」
「え、僕?…別に何も。君は?」
「うーん、…なんか、暇してる。」
「あ、急に話しかけてごめんね?!なんか、気になっちゃって…じ…じゃあね…!」
「…ねぇ、」
「…え?」
「…僕と…友達になってくれない?」
一年前のあの日、僕達はもう一度友達になった。
『ねぇ、』 @30907
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。『ねぇ、』の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます