「下る影」
人一
「下る影」
「なあお前、この学校の七不思議しってるか?」
「七不思議?そんな昭和でもあるまいし……今どき無いだろそんなの。」
「いや!マジであるらしいんだよ。
これは先輩から聞いた話なんだが、花子さんとか二宮金次郎とかの誰でも知ってる奴もあるんだけど……」
「あるんだけど?」
「どうやら……この学校の北棟3階の階段がスポットらしいんだよ。」
「へ~そうなんだ。」
「まだ話は終わってねぇって!いや詳細はな、そこの階段上る時と下る時段数が違うんだってよ。」
「……?当たり前だろ?それ。」
「そう!その考えがミソなんだ。1段じゃなくて2段違うんだってよ!試した先輩とかも口を揃えて『下る時だけ』2段違うんだよ。」
「それは増えてるの?」
「いや、分からない。人によって様々なんだ。増えたり減ったり……まるで階段の機嫌で段数が変わってるみたいだな。」
「ふーん、そうなんだ……」
「どうだ?興味沸いただろ?放課後試そうぜ」
――正直どこにでもある話だろうな。と思っていたが、思いがけない展開にワクワクしている自分がいた。
「分かった。じゃあ、今日の放課後な。……遅れるなよ?」
「ああ!」
元気よく返事をした友人は自分のクラスへ戻って行った。
早速放課後。
友人と例の階段の前で合流した。
日は傾き、オレンジ色の光が世界を照らしていた。
こんな所に用のある生徒は、僕ら以外おらず雑踏や喧噪は遠くから響いている。
「ここが七不思議の例の階段だな。この階段を下る時だけ段数が2段ズレるんだよな?」
「そうらしい。じゃあ先ずは上って段数を数えよう。」
1、2、3……12、13、14
「この階段は14段だな。……あってるよな?」
「僕も数えて同じ段数だから大丈夫。」
下る前に階段に目をやると、不思議と緊張していた。
ゴクリと唾を飲み込み、階段へ踏み出した。
「普通なら13か14だったら正しいんだけど……」
1、2、3……11、12、13
「いや正しいな。」
「そうだな……やっぱり、先輩とかの勘違いじゃないのか?」
「1回じゃ分からないって!」
「まぁ、それもそうだな。」
それから僕たちは七不思議を解明すべく何度も階段を上り下りした。
2回目、問題なし。
3回目、問題なし。
~~
7回目、問題なし。
8回目、段数が狂った気がしたが気のせいだった。
~~
12回目、問題なし。
13回目、問題なし。
もうすっかり日は沈みかけて、夜の闇が覆いつつあった。
気づけば喧噪は無く、静かな校舎に僕たち2人の声が響いていた。
「もう暗いし、次最後にしようぜ。」
「おっけ~じゃあラスト。」
1、2、3……12、13、14
上りは当然問題なし。
階下へ向かう階段は闇にかかるハシゴのようで、ひどく不気味に見えた気がした。
「じゃあ……ラスト下りるぞ。」
「うん。」
友人の声も心なしか小さい気がした。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15……
「あれ?おい、ちょっと止まれって。」
「お前も気づいたか?なんか15段目に今立ってるよな?何度も数えて間違えようもないのに……」
「いや、ここがまだ2階の床なら『勘違いか』で済むけど……どうだ?俺たちまだ階段の中腹にいるよな。」
「どうなってるんだ……とりあえず、2階は見えてるんだしこのまま数えながら下ろう。」
16、17、18……39、40、41……
「さっきの2倍の数下りたけど2階にたどり着くどころか、遠ざかってないか?」
「そんなわけって言いたいけど、下りるたびに遠ざかってる気がしてるのは僕も同じなんだよな……」
「逆転の発想で、下りるとおかしくなるなら3階に上ろうぜ?」
「確かに!いい考えだな。」
41、40、39、38……3、2、1、0
「おい、カウントがゼロになっちまったぞ。それにもかかわらず俺たちは階段の中腹にいるままだ。」
「それどころか3階もどんどん遠ざかって、もう遙か上だよ。」
――もう上るのが正解なのか、下るのが正解なのか判断がつかなくなっていた。
僕たちは照明にまばらに照らされ、薄暗い階段で立ち尽くしていた。
上っても下っても景色は変わらない。元の位置に戻っている訳でもない。
――どんどん離れていく床を除いて。
諦めず、何度も2人で上り下りを繰り返したが
――無駄だった。
無限に続く階段に閉じ込められ、徒労感に打ちのめされ動くことができなくなっていた。
「まさか七不思議が本当だなんて……」
「お前を責めはしないけど、試すんじゃなかったな……」
もう何段目なのかも分からない階段に座り、僕たちはうなだれていた。
「なぁ……」
「あぁ……」
「これから、どうしようか。」
「下る影」 人一 @hitoHito93
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