ラストホイッスル

@Sakamu

第1話

全国大会予選、県準決勝。

0-1で負けている後半ロスタイム。雨が降っていた。キャプテンの光(ひかる)は、左サイドでスローインを受けた瞬間、視界の端にベンチを見た。監督が何かを叫んでいる。でも、雨と歓声で聞こえない。

「もう一度、仕掛けろ……!」

ずぶ濡れのピッチを、ボールを足元に運びながら走る。心臓が痛いほど打っていた。この一瞬のために、3年間、毎朝6時にグラウンドへ来た。仲間と、怒鳴り合い、泣き、笑ってきた。なのに、ベンチにはもう、あいつはいない。光は心の中で呼びかけた。

「見てるか、ユウキ……お前の10番、今、俺がつけてるぞ」

2年の夏、エースのユウキは事故で命を落とた。

サッカー部の中心だった彼がいなくなり、チームは一度、崩壊しかけた。それでも光は、立ち上がった。恐れられてもいい。嫌われてもいい。誰よりも練習し、誰よりも声を出し、そして、ユウキの背番号を引き継いだ。あと10秒。DFを一人抜いた。目の前にはゴールと、GKだけ。打てる。いや、もっといいコースが。

「シュートだ光!!」

ベンチからの声。聞き慣れた声。鼓膜じゃなく、胸に響いた。足が自然に振り抜かれる。ボールはネットを揺らし、ホイッスルが響いた。歓声。抱き合う仲間。泣き崩れる後輩たち。だが光は、ただ空を見上げてつぶやいた。

「お前の声、最後に聞こえた気がしたよ」

雨はもう、止んでいた。

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