タイトル及びあらすじ

 初稿と最終稿の間に、削っては足し削っては足しという作業が山ほどありましたが、個別の話になるので省略させていただき、最後にタイトルとあらすじについてのやりとりをご披露します。

 タイあらは書き出し祭りにおいて、本文と同じくらい実は重要なのではないかと思っています。タイあらでいかに読者を引っ張り込めるか。本文でいかに読者を楽しませるかが大切なのは当たり前なのですが、たどり着いてもらわなければ、どれだけ素晴らしい本文だったとしても、意味がないからです。いかに本文を読んでもらうか。第1会場を狙うのも、同じ理由ですよね。


 あらすじについて、『廻り髪結い』で一番の鍵は、櫛の存在を書くか書かないか、でした。

 公募では、最後のオチまでを書くように指示があるものもあります。一方で、一番のフックである櫛についてあらすじでばらしてしまうのは、とてももったいない、という思いもありました。

 そこで、櫛ありバージョンと櫛なしバージョンを本庄さんに投げました。



【阿下】

あらすじについて、櫛ありバージョンと櫛なしバージョンを作ってみました。


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あらすじ(櫛あり)


時は江戸。貧乏長屋で暮らすたきは、卓越した髪結いの手並みと謎解きの腕前で吉原中の女郎から頼られる存在であるりんの見習いをしている。


ある日のこと、吉原の大見世扇屋で、りんは夕霧太夫の銀のかんざし消失騒動を鮮やかに解決する。ところがその直後、身請けのための千両盗難の嫌疑で、りんは岡っ引きの政次にしょっぴかれてしまう。


絶望と不安の中、たきは師匠の瓶盥(びんだらい)を抱えて長屋に戻る。涙をこぼしているたきに、突然黒く艶めく仕上げ櫛が口を開き、これまで謎を解いていたのは自分であるとたきに告げる。さらに櫛は、りんが嘘をついていることを指摘し、その裏に隠された理由を探り、りんを助け出すため、自分を連れて吉原へ行けとたきを促す。


格子窓から差しこむ月明かり、昼とは別の顔を見せる夜の吉原。艶やかな饗宴と厳しい闇が交錯する中、髪結い見習いの少女は古櫛と共に師匠の無実を証明するため、月下の吉原へ向かう。



あらすじ(櫛なし)


時は江戸。吉原近くの貧乏長屋で幼い弟妹たちと暮らすたきは、隣に住む女髪結いりんの見習いである。廻り髪結いのりんはその腕前と「ある理由」で吉原遊郭の女郎に人気を博していた。


ある日のこと。たきとりんが吉原の扇屋で、当代随一の遊女、夕霧太夫の髪結いをしていると、太夫からお願いがあると切り出された。間夫からもらった銀のかんざしがなくなってしまったので、何とかならないか、と。

りんは髪結いの腕前と、話を聞くだけで困り事を解決することで、吉原一の人気の髪結いなのだ。

部屋中探しても太夫のかんざしは見つからず、部屋には誰も出入りしていない。消え失せたとしか思えない状態だったが、りんの機転によってかんざしは見つかる。


ところが、りんは岡っ引きの政次に身請けのための千両を盗んだ疑いでしょっぴかれてしまう。一人、取り残されるたき。

りんの仕上げ櫛を強く掴み、たきはりんを助け出すことを決意して、月下の吉原へと向かう。

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2025/08/12 23:07



 今見れば、断然櫛なしなのですが、当時はよくわかっておらず。。

 すかさず本庄さんからびしっと指摘が入ります。



【本庄】

あらすじについては、櫛なしの方が圧倒的に良いです。書き出し祭りのあらすじに結末まで書くべきかというアホみたいな論点の話をTwitterでなさる方は毎回おられますが不毛です。これは阿下さんのことを申し上げているのではありません。

公募のあらすじは、落とすためのあらすじですよね。選別の一貫としての減点方式です。だから減点要素を炙り出すためのあらすじを書かせる訳ですが、書き出し祭りで減点方式の話を持ち出すことには何の意味もありません。ナンセンスです。

表でわざとそのあたりを混同した話をする人々が何人もいます。繰り返しますが、阿下さんの話をしているわけではありません。プレッシャーで何を書いても不安な現状、そんなことを言われるとさぞかし気になるでしょうが、なんとか捨ておいてください。


話は変わりますが、あらすじについて、いくつか気になる点がありますので、採用するかどうかはお任せしますが、意見をひとまず添えさせていただきます。


【あらすじの具体的な話について】

時は江戸。吉原近くの貧乏長屋で幼い弟妹たちと暮らすたきは、隣に住む女髪結いりんの見習いである。廻り髪結いのりんはその腕前と「ある理由」で吉原遊郭の女郎に人気を博していた。

 →「ある理由」は、あらすじで書く理由が薄いと考えます。あらすじの時点で書くか、全く書かないかの二択です。演出目的に焦らすのはいいと思いますので、後で記載します。


ある日のこと。たきとりんが吉原の扇屋で、当代随一の遊女、夕霧太夫の髪結いをしていると、太夫からお願いがあると切り出された。間夫からもらった銀のかんざしがなくなってしまったので、何とかならないか、と。

 →これはりん(櫛)の探偵としての自己紹介エピソードなので、積極的に書く理由が乏しいです。ホームズはワトソンがアフガン帰りなのを出会ってすぐ見抜いたから名探偵なのだという紹介がなされないイメージで考えていただけると幸いです。


りんは髪結いの腕前と、話を聞くだけで困り事を解決することで、吉原一の人気の髪結いなのだ。

 →いいと思います。


部屋中探しても太夫のかんざしは見つからず、部屋には誰も出入りしていない。消え失せたとしか思えない状態だったが、りんの機転によってかんざしは見つかる。

 →これも先述の話と繋がります。


ところが、りんは岡っ引きの政次に身請けのための千両を盗んだ疑いでしょっぴかれてしまう。一人、取り残されるたき。

りんの仕上げ櫛を強く掴み、たきはりんを助け出すことを決意して、月下の吉原へと向かう。

 →ここは一話の引きなので、あらすじで書かない方がいいです。満足感が薄れます。もう少しあっさりさせたいところです。


【代案を含めての提案】

30秒で考えたあらすじなので、ざっくりテイスト感覚で見ていただけましたら幸いです。自分だったらこう書きます。

 *

 吉原遊郭に出入りしては遊女の髪を結う、廻り髪結い。若き女髪結いのりんは、吉原一、否、江戸一番の人気を誇っていた。


 それは彼女がただ髪を結い上げる腕に長けているからではない。

「太夫が探していたかんざし、ここにありやした」

 りんは髪を結い上げながら、太夫の悩みをするすると解きほぐしてしまうのだった。


 岡っ引き顔負けの明晰な頭脳を誇る彼女だが、ある日あっさりと本物の岡っ引きに捕まってしまった。なんと千両もの大金を盗んだという嫌疑である。


「師匠ができるのは、髪を結うことのみにございます!」

 無実を訴えてなお、りんは連れていかれてしまった。吉原にはもう、謎を解いてくれる人はいない。残されたのは廻り髪結い見習いのたきだった。


「……まさか、わたしが、ひとりで師匠を助けなければいけないの?」

 残された小さな見習い髪結いがただ一人、たった一つの櫛を握り、吉原の街に立ち上がる。


→序盤は探偵役としてのりんをアピール、後半は探偵役が捕まるという衝撃的展開をアピール。序盤はりんにフォーカスを当てるため、たきの存在すら書く必要はないと考えました。

探偵役が櫛という事実は記載せず。「謎を解いてくれる人はいない(櫛はいる)」という細かい嘘も入れます笑

セリフ(存在しない)をいくつか入れ、読みやすさとテンポを調整しています。あらすじ時点では本編に存在するセリフかなんて読者には分かりませんし、本文を読む頃にはあらすじは大半が忘れられているので、「存在しないセリフじゃねーか!」という苦情が来たことはありません。

2025/08/13 0:07



 はい、本庄メソッドです。

 書き出し祭りで上位を目指すのであれば、このあらすじの作り方は是非参考にされるべきです。

 今回、総合優勝を勝ち取った『火星人の医者』のあらすじも併せてご参照いただくと、方向性がよりご理解いただけると思います。おすすめです。


 次にタイトルですが、これも本庄メソッドが効いていますので、ご注目ください。

 自分からは3案、お送りしました。



【阿下】

今日はタイトル候補をお知らせします。

インプレッション教えていただけたら助かります!


タイトル候補

1.『吉原髪結い謎奇譚』

2.『髪結いは謎をとかない』

3.『髪結いのかくしごと』


1.はあえて漢字もりもりにして、和風感を出したもの

2.は否定を入れることで、え?謎ときするんじゃないの?というフックに。今回の書き出し部分を読んでタイトル回収。

3.薬屋に乗っかった悪ふざけ。ただ櫛の存在を隠していたというところから、決してふざけているだけではなく。文字数を変えて、ひめごとにする選択肢も。

2025年8月25日 午前7:41



 3はちょっとふざけてますね。

 本庄さんからの回答はこちら。



【本庄】

個人的には1か2です。1は王道ですね。副題をつけるのもあり(自分はサブタイつけないのでアレですが……)。2の系統にするなら「謎をとかない廻り髪結い」等にして、『髪結い』の部分をもう少し変えてリズムを良くしたいです。

1だと略称が統一されやすい印象、祭りで話題になるのには向いていると思います。2、3は少し略称がまとまらなくて、エゴサしにくくなりそうです。

3はやはりこちらは真面目でも読者から不真面目な印象がつきかねないので、小さな小さなリスクでも排除した方がよろしいのではないかと思います。


自分だったらベースは2で、よりリズムを整え、略称をつけやすいように何かまとめたくなりそうです(略称のつけやすさは、序盤の単語で既に作品の中身が垣間見え、100作品の中でもほかと被らない識別性があること、変換しやすいことなどのポイントが挙げられます)。

2025年8月25日 午前8:02



 略称をつけやすいようにする、という観点はありませんでした。たしかに今回の祭りの中で、「ハトホル」とか「火星人」というだけで、一発で作品が分かります。口に出していいやすい、というところがポイントなのだと思います。



【阿下】

髪は結えども謎はとかない

もしくは

髪は結えども謎はとかず


これで「髪謎」とか言ってもらえたらラッキーかな、と。

二つ目の方がより江戸っぽいかな、とも思うけど、一つ目の方がとっつきやすさは感じる?

2025年8月25日 午後0:13


【本庄】

自分の経験上、普通の方法で略称がつくことはないです(キムタク、リゼロ、はがない的な)。なぜなら、作者に無許可の略称なので、攻めた略称をつけられないから。

なので略称コストの低い「髪結い」などの略称になることがほとんどです。ここからいかに世論を自分の想定した略称に持っていけるかが腕の見せどころです。


挙げていただいたやつだと二つ目ですかね。江戸ものを読んでくださる方に向けた作品なので、取っ付きやすさを選んだところで、所詮は対象外読者なのが辛いところです……

2025年8月25日 午後0:16



 略称をつける、というポイントに乗っかりすぎた提案をしてしまったのですが、きちんと言語化して説明してくださいました。こうした考え方は非常に参考になりました。



【阿下】

今のところの候補としては


『廻り髪結いは謎をとかない』

『髪は結えども謎はとかず』


です。

自分もサブタイトルはつけないので、その想定で見ていただけると助かります。

まだ決めませんが、自分としては上の方が好みです。

2025年8月25日 午後0:28


【本庄】

当方も上の方が好みです。この場合ですと、「廻り髪結い」という略称がつくことになりそうです!

2025年8月25日 午後0:29


【阿下】

単に髪結いよりは廻り髪結いの方がよいかな、と!

2025年8月25日 午後0:29


【本庄】

個人的にはこれでちょうど良いかと思います!

2025年8月25日 午後0:32



 ということで、タイトルは『廻り髪結いは謎をとかない』に決定しました。


 このあと、本文の最終的な直しを「小説家になろう」で行い、ID,PWを共有して、ルビや傍点におかしなところがないか、チェックしていただきました。「なろう」でチェックをする、ということが地味に大事なところです。本番の環境が「なろう」なので、カクヨムやほかのサイトだとちゃんと見えていても、「なろう」だと違って表示される、ということがありますので、可能であれば「なろう」で確認することをお勧めします。特に傍点については本庄メソッドを語る上で外せない要素なので、どうぞご留意ください。


 原稿提出は25番目を狙って締切1分前から送信したのですが、別の意味でギリギリだったらしい「ライラ」にオオトリは譲ることとなりました。


 以上で、第25回書き出し祭り特別会場『廻り髪結いは謎をとかない』裏話は終わりです。完全優勝を成し遂げた本庄メソッドのすごさを少しでもお伝えできていれば幸いです。


『廻り髪結いは謎をとかない』及び裏話を読んでいただきまして、誠にありがとうございました。


「天晴れ!」

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第25回書き出し祭り特別会場『廻り髪結いは謎をとかない』裏話 阿下潮 @a_tongue_shio

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