グッドモーニングメア

衣ノ揚

グッドモーニングメア

「夢なのは分かってるんだ」

 隣の少女に語りかける。

「目覚めたいけど、目が開かないんだ」

 私のまぶたはしっかり糊付けされたみたいだった。浅田次郎の『地下鉄メトロに乗って』を思い出す。メチル酒で目が潰れた主人公も、こんな感じだったのだろうか。

「ふーん、今日そぼろご飯なのに」

「そぼろご飯は、冷えても美味しいじゃないか」

「あなたに、私のそぼろご飯の何が分かるの」

「分かるさ」

 この駄弁だべんが、現実世界で私の寝言になってる気がして、怖かった。本当は、誰も聞いてはいないんじゃないか。

 察した話し相手は、「大丈夫だよ」と言う。

 私はそれを信じる他なかった。全体重がかかったような瞼に、無理やり力を入れて持ち上げる。

 空いてしまえば、どうってことはなかった。

 少女が開けたのか、カーテンからは優しい朝日が差し込んでいる。光が部屋の埃を照らし、スポットライトの道中が煌めいていた。

 安堵して、シーツを握りしめる力を緩める。

「早く着替えて。昨夜、出かけるって言ったのはあなたじゃない」

 目覚めても、そこに彼女はいる。赤いベレー帽から、短い黒髪がはみ出している。よかった、よかったぁ。

 そんな、夢を見た。視界が滲んで、二度寝した。

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グッドモーニングメア 衣ノ揚 @koromo-no-yogurt

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