暗闇の中に咲く花

最悪な贈り物@萌えを求めて勉強中

暗闇で咲く花

ピンポーン。

家の中でチャイムが響いて、「あ、リュウ様!少々お待ち下さいね。」という優しい声がして、その場に立ち尽くす。


目の前には大きな門。

その門の向こう側は大きな豪邸。

白い壁のまるで宮殿のような家の庭には噴水がたっており、この地域周辺の有名なスポットの1つとなっている。


そして、門のチャイムを鳴らしてから1分程たったあと、晴天の中にが現れた。


真夏というのに見ているだけで涼しくなってしまいそうな白い肌。


強く握ってしまえば一瞬で折れてしまいそうな可憐でありながらも何処かか弱い細い足。


一切の汚れが無く汚れることのなさそうな程白く、純粋な色をしたワンピースを身に纏う。


手には麦のカバン、頭には麦わらの帽子を被って、黒く何処までも深い黒をした髪をなびかて、目を瞑ったままの何処か儚い少女。


僕は彼女が微笑みながら階段を降りる姿に心臓を鷲掴みにされる。


「って…!!お、お嬢様!!!!」

すると、玄関から慌ててメイド姿の女の人が降りてきて、彼女の手を握った。


「お、お嬢様!!1人で歩くのは危険です!!!お手を借ります。」


「あら熊田。ありがとう。」

崩れてしまいそうなその儚い美声は、生きるマーメイド。


メイド姿の女の人、熊田さんが、彼女の手を握り、ゆっくりとこちらへと歩く。


熊田さんが門を開くと、彼女___志島澪シジマミオはその手を彼方へと伸ばした。


「リュウ?何処に居るの?」


その手は空間を掴んでは、空振ってしまう。


彼女、ミオは盲目だ。

でも、それは決して生まれつきだったわけではない。

今から約2年前、中学3年の頃に彼女は信号無視したトラックと正面衝突。

その際に飛び散った車の破片が眼球を貫いてしまった。


俺はミオの手へと寄ると、ミオの手が頬へと触れた。


「あ、リュウ?」


「よぉ、ミオ。」


「ふふ、会えて嬉しい。」


ミオは見当違いな方向を向いたまま、笑顔を顔に浮かべた。


「それじゃあ、リュウ様。お嬢様をお願いします。」

熊田さんは真剣な表情で僕を見つめると、深く会釈をし、そして、赤と白のカラーリングが施されている棒を手渡した。


「はい。ミオを、少し預かります。」

俺はその赤と白の棒、白杖を受け取って、ミオの手を握る。


「ミオ、白杖」

言いながら、俺はミオに白杖を渡すと、「うん。ありがとう。」とミオは答えた。


そして、隣でミオは深呼吸をする。

「楽しみだね。花火大会。」


「…ああ…そうだな。」

ミオには見えていないだろうけど、俺は優しく笑った。



今の時刻は17時。

あと2時間で花火大会だ。


俺とミオは事前に読んでおいたタクシーに乗り込んで駅へと向かう。


切符を買ってから電車に乗ると、電車の中は人が多く、空いている席にミオを座らせた。


「大丈夫?疲れない?」

「大丈夫だ。ミオは座ってろ。」

「うん。」


「ねえ、この夏休みの間。何してた?」

「俺は…ずっと小説書いてたかな」

「そうなんだ。」


「今日の花火大会、屋形船の上で見るんだよ?初めて?」

「そりゃあ、もちろん。俺はそれほど富豪じゃないからな。」

「じゃあ、初屋形船だね。」

『一之江〜一之江〜』


駅のホームへと出ると、そこには大勢の人。

「ミオ。手、握るぞ。」

「え?あ…うん…」

俺は高鳴る心臓を沈めつつ、ミオの手を握った。

ミオが痛くならないくらいの力で握り、白杖をミオの代わりに持つ。


溢れるのは人の声。

ミオにとって音というのはいちばん重要な情報だが、その精度が鈍ってしまっているのかミオは少し苦しそうに眉を顰める。


「大丈夫か…?」

俺は、ミオの耳に優しく耳打ちすると、ミオは無言で頷いた。


駅の外に出て、再びタクシーを捕まえると、目的地の江戸川へと送ってもらう。

ちなみにタクシー代は全て俺持ちだが、それがミオのためなのであれば、容易いものだ。


江戸川の河川敷の乗船場に下りると、そこには屋形船が川の水に流されつつも、プカプカと水面に浮いていた。


「どう?屋形船たくさんある?」

あっけを取られていた俺にミオは言った。


「え?あ、ああ…すごいな…これ…」

なぜだかそんな感想しかでなかった。


あまりにも非現実的だったのだ。

俺はとりあえず、スマホを確認しながら指定された屋形船に乗り込む。

「はい。」


先に階段を下ってから俺はミオの手を握って階段を下ろさせる。

「ありがとう。」


すると、ミオは俺の手を頼りに顔、顎、頬へと辿り着き、そして撫でた。


「今日はありがとうね…リュウ。」

そろそろ日が沈んで花火が打ち上がる頃。

川を流れる屋形船の上でミオが言った。


「ありがとう?えーっと…どういうことだ…?」

「私、夏休み中に友達から遊びに誘われても行けなかったから。リュウと一緒にこうやってこれて嬉しいな。」

「誘ったのはミオだろ?こちらこそ、屋形船なんていう、平民風情にはとても手が出せないようなサービスをしてくれて、ありがとな。なんならバイトしないと割に合わないかもな。」


すると、ヒュー、という音と共に花火が空へと打ち上がった。


「お!花火だ!」

俺は屋形船の小さな窓から花火を覗く。


バアンと爆発してはその花火は消えていった。


「ねえ」

すると、机の前に座ったままのミオが言った。

「リュウってさ、小説書いてるんだよね…?」

「え?ま、まあ…?」

「じゃあ、私にも見せて。花火。」

「い、いや…でもそれって…」と言おうとして、口を閉じる。


ミオは座布団の上で正座したまま、笑みを浮かべている。


バアンという花火の音が空を駆け巡った。

「わかった。」

俺は言って小窓から花火を覗く。


「笛のような打ち上がる音が空間を駆けていく。


光の名残りを撒き散らしながら天へと登り、まるでその姿は龍のようだ。


美しく長い龍が頂点へと達したと同時、文字通り、花火が咲く。


光の雨を散りばめて、赤、緑、青と変わっていく花の姿は、非現実ともおもえるような程に華やかに着飾って、暗い空を彩った。


やがてその美しい花は枯れて行き、暗い空は何もなかったかのように静かになった。」


「綺麗だね。」

全てを聞き終わったミオは一言。

屋形船の天井を見上げて言った。


俺は開かれた拳を握り、窓から離れてミオに近付く。


「ミオと一緒に見たいんだ。手繫ぐぞ。」

「え…?う、うん…」

俺はミオの手を繋いで、「立つぞ。」と言った後に、ミオと一緒に窓辺に移動した。


「俺は、ミオと花火が見たい。」

「でも…私…花火見れないよ?」

「俺が見させてやる。


赤色、緑色、青色。次々に花が咲いて、彩られていく夜の空。


最後の打ち上がるのは黄金の花。


金色に光って空を満たし、窓の中に広がる絵に描いたような世界は、一瞬にして消えていった。」


「綺麗だね……10年後も…20年後も…見れるといいなぁ…」


小さな声でミオが呟いて、俺は聞き返してみたが、「なんでもない!」と元気よくミオは返した。


俺の言う花火を聞いて、ただ綺麗だねと言うミオ。





大きな門の前。

白杖を持ったミオ。


ワンピース姿のミオは暗い闇の中でも綺麗だった。


「ねえ、リュウ」

すると、ミオはまたしても見当違いな方向に手を振り、俺はその手に近づいた。


「あ、居た。」

「そりゃあ…もちろん。」


俺は、チャイムを鳴らすと、豪邸の中から熊田さんが玄関の扉を開けて駆け寄る。


「おかえりなさい、お嬢様」

ミオは手を俺の頬へと添えると、頬を撫でた。


「お、お嬢様…」

そして、その姿を見て何故か胸を抑える熊田さん。


「大丈夫だから…」

ミオは言うと、熊田さんに白杖を渡した。


「私、今日見た花火が、行きてきた中で一番、綺麗だったよ。」

文の中で一呼吸一呼吸、間を置いて話すミオ。


見えないだろう。

見えないだろうけど、それでも優しく笑って見せた。

「それはよかった。安心したよ。」


すると、ミオは目を瞑ったまま、もう片方の頬に手を添えた。

「だから…これはお礼ね。」


刹那、ミオは背伸びして、俺に口付ける


キスだ。


金木犀だろうか、花の匂いが鼻孔をくすぐって、同時に柔らかい感触が唇を伝わる。


ミオの白い肌が目の前まで迫り、鼓動が一瞬跳ね上がった。


ミオの手が頬から離れない。

より一層、強く頭が押されて、時間にすれば5秒程なのだろうが、体内時間では10分程はそうしていたように感じる。


唇を離すと、麦わら帽子で顔を隠して、熊田さんに手を伸ばした。


熊田さんは、「それでは、お嬢様をこれからよろしくお願いします。」と冷静に言葉を言ったあと、門を締めて豪邸の中へと入った。


暗闇の中に咲く花は、とても綺麗だった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

暗闇の中に咲く花 最悪な贈り物@萌えを求めて勉強中 @Worstgift37564

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ